減価償却は税負担を軽くする効果があります。
しかし、その本質を理解せずに活用すると、後々思わぬ税負担や資金繰りの悪化を招く可能性もあります。
本記事では、マンション経営における減価償却の本質と、活用する際に押さえておくべきポイントを解説します。
この記事の3行まとめ
- 減価償却は税金を消す仕組みではなく、あくまで税負担を将来に繰り延べる制度
- デッドクロスや売却時の課税増加など、長期的なリスクも理解して活用する必要がある
- 税率・借入状況・出口戦略を踏まえてシミュレーションし、経営戦略として判断することが重要
減価償却について正しく理解して、健全なマンション経営を行いましょう。
減価償却の本質は「税金の先送り」

減価償却は「節税対策」として語られることが多い制度ですが、正確には税金を減らすというよりも、課税のタイミングを後ろにずらす仕組みです。
まずは減価償却の基本的な考え方と、なぜ節税効果があるように見えるのかを整理していきましょう。
減価償却とは何か
減価償却とは、建物など時間の経過とともに価値が減少する資産について、その取得費用を法定耐用年数に応じて分割し、毎年経費として計上する仕組みです。
マンション経営の場合、減価償却の対象となるのは「建物部分」のみであり、土地は対象外です。
例えば、3,000万円の物件を購入し、そのうち建物が2,000万円、土地が1,000万円であれば、償却できるのは2,000万円部分だけです。
この建物価格を耐用年数(例:RC造47年、木造22年など)で割った金額を、毎年減価償却費として計上します。
なぜ節税になると言われるのか
減価償却費は、実際に現金が出ていく支出ではありません。
それでも経費として認められるため、不動産所得を圧縮することができます。
不動産所得が圧縮されれば、所得税・住民税が軽減されます。
サラリーマンオーナーであれば、損益通算によって給与所得と相殺できるため、税金が還付されるケースもあります。
この仕組みが「減価償却は節税になる」と言われる理由です。
ただし、ここで重要なのは、税金がなくなるわけではないという点です。
減価償却はあくまで課税を先送りする制度であることを理解しておく必要があります。
減価償却で得られる3つの効果

減価償却は、マンション経営の収支構造に複数の影響を与えます。
ここでは、実務上とくに重要な3つの効果を整理します。
所得税・住民税の圧縮
減価償却費を計上することで課税所得が減り、その年の税負担が軽くなります。
とくに高所得層は累進課税の影響を強く受けるため、同じ償却額でも税率が高いほど節税効果は大きくなります。
例えば、税率33%のゾーンにいる場合、100万円の減価償却費を計上すれば、単純計算で約33万円分の税負担が軽減されるイメージです。
税率が高いほど、減価償却の効果は実感しやすくなります。
キャッシュフローの改善
税金が減ることで、手元に残る資金が増えます。
減価償却費は実際の支出を伴わない「帳簿上の経費」であるため、現金を使わずに経費計上できる点が特徴です。
その結果、税金の支払い額が減り、キャッシュフローが改善します。
この効果により、追加投資や繰上返済に回せる資金が生まれるケースもあります。
累進課税の緩和
課税所得が下がることで、適用される税率区分が下がる場合があります。
たとえば、課税所得が900万円を少し超えている場合、減価償却によって900万円未満に抑えられれば、税率区分が下がる可能性があります。
こうした「税率の壁」を意識することも、減価償却を戦略的に活用するうえで重要です。
注意すべき落とし穴① デッドクロス

減価償却を活用する上で、必ず理解しておきたいのが「デッドクロス」です。
短期的な節税効果に目が向きがちですが、長期的なキャッシュフローの変化まで見据えなければ、資金繰りが苦しくなる可能性があります。
ここからは、マンション経営におけるデッドクロスについて解説します。
デッドクロスとは何か
ローン返済のうち、元本部分は経費になりません。
一方で、減価償却費は年々減少し、耐用年数終了後はゼロになります。
減価償却が終了すると、帳簿上の経費が減る一方で、ローンは返済し続けなければいけません。
その結果、課税所得が増えて税金が重くなり、手元資金が減少する「デットクロス」が発生します。
帳簿上は黒字でも、実際のキャッシュが不足するという状況が起こり得るため、非常に注意が必要です。
デッドクロスが起きやすいケース
デットクロスは、築浅物件を長期ローンで購入した際に発生しやすい傾向にあります。
借入比率が高いと、減価償却によってデッドクロスが起きるため注意が必要です。
特に木造物件は耐用年数が短いため、減価償却が早期に終了し、その後の税負担増が顕在化しやすくなります。
このようなケースでは、償却終了後に税負担が急増する可能性があります。
デッドクロス対策
デットクロスの発生を防ぐには、借入期間を長くしすぎないことが大切です。
繰上返済を計画的に行い、追加投資で償却費を確保しましょう。
デッドクロスが発生する前に、売却を検討するのも有効です。
減価償却は短期的には有利でも、長期的な資金計画がなければ逆効果になりかねません。
注意すべき落とし穴② 売却時の税負担増

減価償却は税金の先送りであるため、売却時に影響が出ます。
建物は償却によって簿価が下がります。
例えば2,000万円の建物を1,000万円分償却していれば、帳簿上の価値は1,000万円です。
この状態で2,000万円で売却すれば、差額1,000万円が譲渡所得として課税対象になります。
つまり、購入時と同額で売っても利益が出た扱いになるのです。
減価償却で減らした税金は、売却時に一部戻る可能性があることを理解しておく必要があります。
節税効果が高い人・低い人

減価償却は誰にとっても同じ効果が出るわけではありません。
税率や収入構造、保有戦略によって、節税メリットの大きさは大きく変わります。
ここでは、効果が出やすいケースとそうでないケースを整理します。
節税効果が高いケース
高税率の人ほど、減価償却によって圧縮できる税額は大きくなります。
特に累進課税の高いゾーンにいる場合、同じ償却額でも還付・軽減される税額は増えます。
また、サラリーマンであれば不動産所得の赤字を給与所得と損益通算できるため、税金の還付という形で効果を実感しやすいでしょう。
さらに、中古物件で短期間に償却できるケースでは、初期段階で大きな節税効果を得られる可能性があります。
節税効果が低いケース
税率が低い場合、減価償却による節税インパクトは限定的です。
不動産所得自体が小さい場合も、圧縮できる課税所得が少ないため効果は小さくなります。
また、長期保有で売却予定がない場合は、減価償却の「税の先送り」という性質がメリットになりにくいケースもあります。
税率が変わらないまま将来に繰り延べるだけであれば、実質的な得にはつながりません。
自分がどのポジションにいるのかを把握することが、減価償却を戦略として活用する第一歩です。
減価償却は「節税」ではなく「戦略」

減価償却は確かに税負担を軽減する効果があります。
しかし、それは税金を消す魔法ではなく、あくまで繰り延べの仕組みです。
短期的なキャッシュフロー改善策としては有効ですが、デッドクロスや売却時の税負担増を考慮しなければ、後悔につながる可能性もあります。
重要なのは、税率・借入・出口戦略を踏まえたうえで活用することです。
「節税になるから買う」のではなく、「経営戦略としてどう使うか」を考えることが、損をしないマンション経営への近道になります。