【この記事の3行まとめ】
- 「建物の老い」と「人の老い」という"二つの老い"が、マンションの資産価値を脅かす最大のリスクになっている
- 2025年5月成立の区分所有法等改正(2026年4月施行予定)で、決議要件の緩和や所在不明者対応など救済策が大幅に整備された
- 先進的な管理組合は「規約の現代化」「第三者管理方式」「IT・補助金活用」で危機を乗り越えている
「総会の定足数が足りず、大規模修繕の決議ができない」「連絡が取れない区分所有者がいて、管理費が回収できない」――。築年数の経過したマンションでは、こうした"管理不全"の予兆があちこちで顕在化しています。なかでも深刻なのが、本記事のテーマである高齢化と所有者不明問題です。
不動産オーナー・投資家にとって、区分所有マンションの管理状態は資産価値に直結する重要事項です。本記事では、2025年の法改正のポイントを整理したうえで、実際に危機を乗り越えた管理組合の取り組みを事例として紹介し、今日から着手できる具体的な対策まで体系的に解説します。
深刻化する「二つの老い」とマンション管理不全の実態

日本には約700万戸超の分譲マンションが存在し、約1,500万人以上が居住していると言われています(国土交通省「分譲マンションストック数」より)。そのうち築40年を超えるマンションは年々増加しており、2042年には築40年超が約445万戸に達すると推計されています。これは現在の3倍以上の水準です。
「二つの老い」とは何か
マンション管理の現場で語られる「二つの老い」とは、次の2つの老朽化を指します。
- 建物の老い(ハードの老朽化):外壁・配管・防水・設備の劣化。築40年を超えると修繕費が急増する
- 人の老い(ソフトの老朽化):区分所有者の高齢化による役員のなり手不足、総会出席率の低下、合意形成の困難化
この2つが同時に進行することで、「修繕したいのに決議が取れない」「積立金が不足しているのに値上げの合意ができない」といった悪循環に陥ります。国土交通省のマンション総合調査でも、永住意識の高まりとともに居住者の高齢化が進み、世帯主が60歳以上のマンションが全体の過半数を占める結果が報告されています。
管理不全が引き起こす「負の連鎖」
「たった一人の所在不明者が、マンション全体を崩壊させることもある」――この言葉は決して大げさではありません。管理不全は次のように連鎖していきます。
- 所有者の死亡・相続放棄・転居により連絡が取れなくなる
- 管理費・修繕積立金が滞納され、組合の財政が悪化
- 総会の定足数・議決権が確保できず、重要な決議ができない
- 大規模修繕が先送りされ、建物の劣化が加速
- 空室・荒廃住戸が増え、資産価値が下落、新たな買い手も付かない
不動産投資家にとっては、こうした管理不全マンションを「知らずに購入してしまう」リスクも見逃せません。重要事項調査報告書で滞納額や所在不明者の有無、修繕積立金の積立状況を必ず確認することが、資産防衛の第一歩となります。
そもそも「所有者不明マンション」とは?
「所有者不明マンション(住戸)」とは、登記簿などの公的記録を調べても所有者が分からない、または所有者が判明していても連絡が取れない住戸を含むマンションを指します。主な発生原因は以下の通りです。
| 発生原因 | 具体的な状況 |
| 相続登記の未了 | 所有者が死亡しても相続登記がされず、相続人が不明・多数化する |
| 相続放棄 | 相続人全員が放棄し、管理する者がいなくなる |
| 転居・住所変更 | 所有者が転居しても組合に届出をせず、連絡先が古いまま |
| 遠方在住・外国居住 | 投資目的の所有者が海外などに在住し、連絡が困難 |
2024年4月から相続登記が義務化されたことで、今後は新たな所有者不明住戸の発生を抑制する効果が期待されています。ただし、すでに発生している所有者不明住戸への対応には、後述する2025年の法改正による新制度が大きな武器となります。
2025年区分所有法改正がもたらす救済策

こうした課題に対応するため、2025年5月に区分所有法等の改正法(「老朽化マンション等の管理及び再生の円滑化等を図るための法律」を含む関連法)が成立しました(2026年4月施行予定。一部の施行時期は政令で定められます)。これにより、老朽化・所有者不明マンションへの救済策が大きく整備されます。
改正の主要ポイント
| 改正ポイント | 内容 |
| 修繕・建替え等の決議要件緩和 | 共用部分の変更などについて、集会の決議要件を緩和。出席者ベースでの決議を可能にする仕組みを導入 |
| 所在不明所有者への対応 | 裁判所が認定した所在不明区分所有者を、決議の母数(分母)から除外できる制度を整備 |
| 管理不全専有部分の管理制度 | 裁判所が選任した管理人が、管理されていない住戸を管理できる制度を新設 |
| 多様な再生手法の導入 | 一括売却・リノベーション・取壊しなどを多数決で進められる選択肢を拡充 |
| 行政関与の強化 | 地方自治体が管理不全マンションへ介入・支援できる権限を強化 |
改正のメリット・デメリット
改正によるメリットと、運用上で留意すべきデメリット(注意点)を整理します。
- メリット①:一部の無関心層や所在不明者がいても、必要な修繕・再生の決議が進められる
- メリット②:放置された荒廃住戸を、裁判所選任の管理人が管理できるため、衛生・防災面のリスクを低減できる
- メリット③:建替えだけでなく、売却・リノベ・取壊しなど多様な出口を選べる
- デメリット(注意点)①:所在不明者認定や管理人選任には裁判所手続きが必要で、時間と費用がかかる
- デメリット(注意点)②:実際の運用には専門家(弁護士・マンション管理士)の関与が不可欠
これらの改正は、従来の厳格な決議要件を緩和し、管理不全マンションの再生を現実的に進めるための重要な一歩です。一方で、制度を使いこなすには事前準備と専門家連携が前提になる点を押さえておきましょう。
成功事例1:所有者不明問題を克服した取り組み

東京都内の築年数が経過したあるマンション(総戸数約60戸)では、複数の所有者不明住戸があり、総会の成立が危ぶまれていました。管理組合は次のように段階的に取り組み、危機を乗り越えました。
実施した4つの取り組み
- 管理規約の改正:連絡先届出義務と、長期不在時の代理人選任義務を新たに追加
- 専門家による所有者調査:弁護士と連携し戸籍・住民票を調査、一部住戸の相続人を特定して連絡を回復
- 滞納住戸への法的対応:滞納が続く住戸に対し、先取特権に基づく競売を申し立て
- コミュニティの活性化:防災訓練やイベントを定期開催し、異変を早期察知できる体制を整備
この結果、所在不明者問題を段階的に解消し、管理体制を再構築することに成功しました。ポイントは、「届出義務化による予防」と「調査・法的措置による対応」を両輪で進めたことです。新規の所在不明者を出さない仕組みづくりが、長期的な安定運営につながりました。
成功事例2:高齢化対応で再生を果たしたマンション

神戸市の築年数が経過したマンションでは、居住者の高齢化が進み、理事のなり手不足が深刻化していました。管理組合は次のような改革を断行しました。
- 第三者管理方式の導入:マンション管理士を外部管理者として選任し、役員の負担を大幅に軽減
- IT活用の推進:オンライン総会・電子議決権行使を導入し、自宅や入院先からの参加を可能に
- 自治体との連携:管理適正化推進計画を活用し、専門家派遣と補助金を獲得
- 長期修繕計画の見直し:現実的な計画に改訂し、修繕積立金を適正水準に段階的に調整
その結果、国土交通省の「管理計画認定制度」の認定を取得しました。この認定を受けたマンションは、適正に管理されている証明となり、住宅金融支援機構の【フラット35】金利引下げの対象になるなど、資産価値の向上にもつながります。中古市場での売却時にも有利に働くため、投資家にとっても注目すべき制度です。
第三者管理方式のメリット・デメリット
| メリット | デメリット(注意点) |
| 役員のなり手不足を解消できる | 外部委託費用が発生する(月数万円〜) |
| 専門知識に基づいた運営が可能 | 管理者への監視・チェック体制が必要 |
| 合意形成・議事進行が円滑になる | 利益相反のリスクに注意(監事の設置等が重要) |
管理組合が今すぐ取り組むべき5つの対策

管理不全化を未然に防ぐためには、問題が顕在化する前に具体的な行動を起こすことが重要です。法改正の救済策はあくまで「治療薬」であり、最も効果が高いのは「予防」です。
| 対策項目 | 実践方法 |
| 定期的な所有者情報更新 | 年1回の連絡先確認、相続発生時の届出体制を整備 |
| 管理規約の見直し | 標準管理規約(管理のひな型)の最新版に準拠し、電子化・IT対応を明記 |
| 専門家活用体制の構築 | マンション管理士や弁護士と顧問契約を締結 |
| デジタル化の推進 | 総会・議決権行使のオンライン化、高齢者向けIT講習の実施 |
| 地域・行政との連携 | 支援制度・補助金の活用、自治体や地域コミュニティとの協働体制を確立 |