【この記事の3行まとめ】
- 現金を不動産に組み替えると相続税評価額が3〜5割下がり、賃貸に出せば最大65%圧縮できる
- 「貸家建付地」評価や「小規模宅地等の特例」を併用すれば節税効果はさらに高まる
- 2024年のマンション評価ルール改正と最高裁の否認判例を踏まえ、計画的かつ合理的な投資が必須
「マンション投資が相続税対策になる」という話を、一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。実際、現金1億円をそのまま相続するよりも、同じ1億円でマンションを購入して残したほうが、相続税の負担を大きく軽減できるケースは数多く存在します。
その理由は、相続税の計算に使われる「評価額」の仕組みにあります。現金は額面どおりに課税される一方、不動産は実際の市場価格よりも低く評価されるためです。さらに賃貸に出したり、特例を活用したりすることで、評価額は一段と圧縮されます。
ただし、2024年1月から区分所有マンションの評価方法が見直され、以前ほど単純な節税話ではなくなりました。また、過度な節税スキームは税務署に否認されるリスクもあります。この記事では、マンション投資が相続税対策になる仕組みを具体的な数字とともに解説し、失敗しないための注意点まで網羅的にお伝えします。
マンション投資で相続税対策ができる仕組みとは
マンション投資が相続税対策になる根本的な理由は、「相続税評価額」と「市場価格(時価)」に差があるためです。相続税は、亡くなった人が残した財産の評価額をもとに計算されます。このとき、現金や預貯金はその金額がそのまま評価額になりますが、不動産は国が定めた一定のルールで評価されるため、実際の取引価格よりも低くなるのが一般的です。
たとえば、相続税の基礎控除額は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で計算されます。法定相続人が配偶者と子ども2人の合計3人であれば、基礎控除額は4,800万円です。財産がこの金額を超えると相続税が課されますが、その課税対象額をいかに圧縮するかが対策の核心となります。
現金をそのまま相続すると評価額は減りませんが、その現金でマンションを購入すれば評価額が下がり、結果として課税対象額が減少します。これがマンション投資による相続税対策の基本的な仕組みです。次の章では、具体的に評価額が下がる3つの理由を詳しく見ていきましょう。
マンション投資が相続税対策になる3つの理由

マンション投資が相続税対策として注目される理由は、相続税の計算で使われる「評価額」にあります。現金はそのままの金額で課税される一方、不動産は実際の売買価格よりも低い金額で評価されるのが特徴です。賃貸に出したり特例を活用したりすれば、評価額はさらに圧縮できます。ここでは、節税につながる3つの仕組みを順に見ていきましょう。
①現金より評価額が下がる仕組み
相続税の計算では、不動産は売買価格ではなく、国が定めた基準で評価されます。土地は「路線価」、建物は「固定資産税評価額」が基準です。一般的に、路線価は公示地価の約8割、固定資産税評価額は建築費(時価)の約5〜6割に設定されています。つまり、購入した瞬間に評価額が下がるのです。
たとえば5,000万円の現金と、5,000万円で購入したマンションを比べると、評価額には大きな差が生まれます。以下の表で確認してみましょう。
| 資産の種類 | 購入額/保有額 | 相続税評価額の目安 | 圧縮率 |
| 現金 | 5,000万円 | 5,000万円 | 0% |
| マンション(自己使用) | 5,000万円 | 約2,500万円〜3,500万円 | 30〜50% |
| マンション(賃貸中) | 5,000万円 | 約1,750万円〜2,450万円 | 50〜65% |
このように、現金を不動産に組み替えるだけで評価額が3〜5割下がります。賃貸に出せばさらに圧縮され、節税効果は一段と高まります。なお、圧縮率は物件の立地・築年数・建物と土地の価格比率によって変動するため、上記はあくまで目安です。都心の好立地物件ほど土地評価の割合が高く、圧縮率は控えめになる傾向があります。
②賃貸に出すと評価額がさらに下がる
マンションを第三者に貸すと、所有者は自由に使ったり売ったりできなくなります。この「使い方の制限」が評価額に反映される仕組みです。借主の権利を保護する分、所有者の財産価値が下がると考えられるためです。
具体的には、土地は「貸家建付地(かしやたてつけち)」として評価されます。計算式は次のとおりです。
貸家建付地の評価額=自用地評価額×(1−借地権割合×借家権割合×賃貸割合)
借地権割合は地域によって60〜70%が一般的で、借家権割合は全国一律30%です。満室(賃貸割合100%)であれば、借地権割合70%の地域で計算すると、土地の評価額はおよそ2割下がります(0.7×0.3×1.0=0.21)。
建物も同様に「貸家」として評価され、固定資産税評価額から「借家権割合×賃貸割合」分が減額されます。満室の場合は建物評価額が30%減額されます。具体的な計算例を以下に示します。
| 項目 | 自己使用の場合 | 賃貸(満室)の場合 |
| 土地(自用地評価3,000万円) | 3,000万円 | 約2,370万円(▲21%) |
| 建物(固定資産税評価2,000万円) | 2,000万円 | 1,400万円(▲30%) |
| 合計 | 5,000万円 | 約3,770万円 |
このように、マンションを購入して賃貸に出すだけで、土地と建物の両方の評価額を引き下げられます。賃貸経営による家賃収入も得られるため、相続対策と資産運用を同時に実現できる点が大きな魅力です。
③小規模宅地等の特例で土地の評価額が半減する
賃貸用不動産の土地には「小規模宅地等の特例」が使える場合があります。この特例を適用すると、200平方メートルまでの部分について土地の評価額が50%減額されます(貸付事業用宅地等の場合)。前述の貸家建付地評価とこの特例を併用できるため、土地の評価額は大幅に圧縮されます。
ただし、適用には重要な条件があります。原則として、相続開始前3年以内に新たに貸付事業を始めた物件には適用されません。節税を目的にマンション投資を検討するなら、できるだけ早い段階で始めておく必要があります。
- 貸付事業用宅地等:200㎡まで評価額を50%減額
- 特定居住用宅地等(自宅):330㎡まで評価額を80%減額
- 特定事業用宅地等:400㎡まで評価額を80%減額
自宅と賃貸用を併用する場合は面積の上限に制約(限度面積調整)があるため、どちらに優先して適用するかは税理士と相談しましょう。減額率の高い自宅を優先するケースが多いものの、土地の単価や面積によって最適解は変わります。
マンション投資による相続税対策のメリット・デメリット
マンション投資による相続税対策には、節税以外にもさまざまなメリットがある一方、見落としてはならないデメリットも存在します。投資判断の前に、両面を整理しておきましょう。
メリット
- 相続税評価額を大幅に圧縮できる:現金保有より3〜6割評価額を下げられる
- 家賃収入が得られる:相続までの間も毎月の安定収入につながる
- 分割しやすい場合がある:複数の区分マンションなら相続人ごとに分けやすい
- インフレ対策になる:現金と異なり実物資産は物価上昇に強い
デメリット・リスク
- 空室・家賃下落リスク:賃貸割合が下がると評価圧縮効果も薄れる
- 流動性が低い:すぐに現金化できず、売却に時間がかかる
- 価格下落リスク:購入価格より市場価値が下がる可能性がある
- 遺産分割でトラブルになりやすい:1棟物件は分割しにくい
- 税制改正・否認リスク:制度変更や過度な節税の否認で効果が減る
節税効果だけに目を奪われると、空室や価格下落によって「相続税は減ったが資産自体も目減りした」という本末転倒な結果になりかねません。投資としての収益性と相続対策のバランスを取ることが重要です。
相続目的のマンション投資で失敗しないための注意点

マンション投資は有力な相続税対策ですが、制度改正や税務署の判断によって想定どおりの節税効果が得られないケースもあります。ここでは、投資判断の前に必ず知っておくべき2つのリスクを解説します。
2024年改正で節税効果はどう変わったか
2024年1月1日以降に相続・贈与で取得した区分所有マンションには、新たな評価ルールが適用されています。「区分所有補正率」という補正が加わり、市場価格と評価額の乖離が大きい物件については相続税評価額が引き上げられるようになりました。これがいわゆる「タワマン節税」への規制強化です。
改正前と改正後の違いを整理すると、次のとおりです。
- 改正前:タワーマンションは市場価格の3〜4割程度で評価されるケースが珍しくなかった
- 改正後:評価額が市場価格の最低6割(評価水準60%)を下回らないよう補正される仕組みに変更された
- 補正率の算定要素:築年数、総階数(総階数指数)、所在階、敷地持分狭小度(専有面積に対する土地持分の割合)
国税庁は「居住用の区分所有財産の評価に係る区分所有補正率の計算明細書」を公開しています。購入を検討している物件があれば、事前にシミュレーションしておくと安心です。特に高層階・築浅・タワーマンションは補正の影響が大きいため、注意が必要です。
改正後も「不動産は現金より評価額が低い」という原則は変わりませんが、以前ほど大きな差は出にくくなっています。「マンションを買えば大幅に節税できる」という従来の認識は修正が必要でしょう。一棟アパート・マンションや、評価水準が60%を超える物件は改正の影響を受けないため、選択肢として検討する価値があります。
税務署に否認されるケースとは
相続税対策として購入したマンションの評価額が、税務署から認められないケースがあります。通常は路線価などで評価しますが、市場価格と著しく乖離する場合は、財産評価基本通達6項(総則6項)にもとづき、実勢価格(鑑定評価額)での評価を求められることがあります。
令和4年4月の最高裁判決では、相続直前に約13.8億円で購入したマンション2棟の路線価評価(約3.3億円)が否認され、不動産鑑定による約12.7億円での評価が認められました。判決の要旨は、「節税を目的とした購入であり、他の納税者との公平性を著しく害する」というものです。
否認されやすいケースには共通する特徴があります。
- 相続開始の直前(数か月〜数年前)に購入している
- 多額の借入金と組み合わせた過度な節税スキームになっている
- 相続後すぐに売却している
- 路線価評価と市場価格の乖離が極端に大きい
こうしたリスクを避けるには、以下の点を意識しましょう。
- 相続が見込まれる数年前から計画的に購入する
- 節税だけでなく、家賃収入など投資としての合理性を確保する