3行まとめ
- 相続したアパートを売却すると、売却益(譲渡所得)に対して約20%(長期)または約39%(短期)の譲渡所得税がかかる
- 税額は「売却価格」ではなく「取得費・譲渡費用を差し引いた利益」に課税され、相続では被相続人の取得時期・取得費を引き継ぐ
- 「取得費加算の特例」「空き家の3,000万円特別控除」などを活用すれば、税負担を数百万円単位で抑えられる可能性がある
相続したアパートを売却しようと考えたとき、多くの方が最初に気になるのが「税金は結局いくらかかるのか」という点です。売却金額がそのまま手元に残るわけではなく、譲渡所得税の仕組みを理解していないと、想定よりも手取りが数百万円単位で少なくなることもあります。
一方で、計算方法や特例のルールを正しく押さえておけば、合法的に税負担を大きく軽減することも可能です。実際、取得費の扱いや保有期間の判定、相続特有の特例によって、最終的な税額は大きく変わります。
この記事では、相続したアパート売却にかかる税金の基本から、具体的な計算シミュレーション、節税に使える特例、売却前のチェックポイントまでを、不動産オーナー・投資家の視点で網羅的に解説します。
- 相続したアパート売却でかかる税金の基本
- アパート売却時にかかる税金・費用の全体像
- 譲渡所得税がかかる仕組み(譲渡所得の考え方)
- 「取得費」とは何か
- 「譲渡費用」とは何か
- 税金の計算方法と具体的シミュレーション
- ケース1:取得費が判明している場合
- ケース2:短期譲渡(5年以下)の場合
- 長期・短期の税額比較表
- 取得費が不明な場合の注意点と対処法
- 取得費を証明できる資料の探し方
- 保有期間で変わる税率の違い(短期・長期)
- 相続では被相続人の保有期間を引き継げる
- 税負担を軽減する主な特例とメリット・デメリット
- ①取得費加算の特例
- ②空き家の3,000万円特別控除
- ③長期譲渡所得の軽減税率(マイホーム特例)
- 相続したアパート売却の具体的な税額シミュレーション
- 相続したアパート売却でよくある質問(FAQ)
- Q1. 被相続人の購入価格がわからない場合はどうなりますか?
- Q2. 相続人が複数いる場合、税金はどう計算しますか?
- Q3. 確定申告はいつ行えばよいですか?
- Q4. 売却で損失が出た場合も申告が必要ですか?
- まとめ
相続したアパート売却でかかる税金の基本

相続したアパートを売却した場合にかかる主な税金は「譲渡所得税」です。これは、売却によって得た利益(譲渡所得)に対して課税される税金で、所得税・復興特別所得税・住民税の3つが組み合わさったものです。
もっとも重要なポイントは、「売却金額そのもの」に課税されるのではなく、「利益部分(差額)」に対して課税されるという点です。3,000万円で売れたからといって、3,000万円に税率がかかるわけではありません。
アパート売却時にかかる税金・費用の全体像
譲渡所得税以外にも、売却時にはさまざまな税金・費用が発生します。全体像を整理しておきましょう。
| 項目 | 内容 | 費用の目安 |
|---|---|---|
| 譲渡所得税 | 売却益に対する所得税・住民税 | 利益の約20%〜39% |
| 印紙税 | 売買契約書に貼付 | 1万〜6万円(売却額による) |
| 仲介手数料 | 不動産会社へ支払う | 売却額×3%+6万円+消費税が上限 |
| 登記費用 | 抵当権抹消・相続登記など | 数万円〜(司法書士報酬含む) |
| 測量・解体費用 | 必要に応じて | 測量30万〜80万円/解体100万円〜 |
このように、売却額がそのまま手元に残るわけではありません。譲渡所得税と諸費用を含めた「最終的な手取り」を把握することが、後悔しない売却の第一歩です。
譲渡所得税がかかる仕組み(譲渡所得の考え方)

譲渡所得は、次の計算式で求められます。これが税金計算の出発点です。
譲渡所得 = 売却価格 −(取得費 + 譲渡費用)
そして、この譲渡所得に税率をかけたものが譲渡所得税となります。
譲渡所得税 = 譲渡所得 × 税率(長期約20.315% / 短期約39.63%)
「取得費」とは何か
取得費とは、そのアパートを購入したときの金額や建築費、購入時の諸費用(仲介手数料・登記費用・不動産取得税など)を指します。建物部分については、経過年数に応じた減価償却費を差し引いた金額が取得費となる点に注意が必要です。
相続の場合、被相続人(亡くなった方)が取得したときの価格を引き継ぐのが最大の特徴です。相続によって取得費がリセットされるわけではありません。
- 土地の購入価格
- 建物の建築費・購入価格(減価償却後)
- 購入時の仲介手数料・登記費用・不動産取得税
- 購入後の設備改良費(資本的支出)
「譲渡費用」とは何か
譲渡費用は、売却のために直接かかった費用です。主に以下が該当します。
- 不動産会社への仲介手数料
- 売買契約書の印紙税
- 売却のための測量費・建物解体費
- 入居者の立ち退き料
一方で、固定資産税やローン金利、修繕費(維持管理目的)などは譲渡費用に含められません。つまり、売却によって実際に得た「純粋な利益」に対してのみ税金がかかる仕組みです。
税金の計算方法と具体的シミュレーション
実際の数字を使って、税額がどのように決まるのかを見ていきましょう。
ケース1:取得費が判明している場合
| 売却価格 | 3,000万円 |
| 取得費 | 2,000万円 |
| 譲渡費用 | 200万円 |
譲渡所得は次のように計算されます。
3,000万円 − 2,000万円 − 200万円 = 800万円(譲渡所得)
この800万円に税率をかけます。被相続人の保有期間を含めて5年超(長期)に該当する場合、税率は20.315%です。
800万円 × 20.315% = 約162万円(譲渡所得税)
ケース2:短期譲渡(5年以下)の場合
同じ譲渡所得800万円でも、短期譲渡に該当すると税率は39.63%に跳ね上がります。
800万円 × 39.63% = 約317万円(譲渡所得税)
長期と短期で、なんと約155万円もの差が出ます。保有期間の判定がいかに重要かが分かります。
長期・短期の税額比較表
| 譲渡所得 | 長期(20.315%) | 短期(39.63%) | 差額 |
|---|---|---|---|
| 500万円 | 約101万円 | 約198万円 | 約97万円 |
| 800万円 | 約162万円 | 約317万円 | 約155万円 |
| 1,500万円 | 約304万円 | 約594万円 | 約290万円 |
| 3,000万円 | 約609万円 | 約1,189万円 | 約580万円 |
このように、譲渡所得が大きくなるほど長期・短期の差は拡大します。売却タイミングの判断は税額に直結します。
取得費が不明な場合の注意点と対処法

相続した不動産では、被相続人が古くに購入したものが多く、取得費が分からない・売買契約書が見つからないケースが少なくありません。この場合、「概算取得費」として売却価格の5%を取得費とみなすことができます。
例えば売却価格が3,000万円の場合、
3,000万円 × 5% = 150万円(概算取得費)
これを使うと、譲渡所得は「3,000万円 − 150万円 − 譲渡費用」となり、利益が非常に大きく計算されてしまいます。結果として税金が膨らむため、概算取得費はあくまで「最後の手段」と考えるべきです。
取得費を証明できる資料の探し方
正確な取得費を把握するために、以下の資料を探しましょう。
- 売買契約書・重要事項説明書
- 建築請負契約書(建築した場合)
- 購入時のローン契約書・返済予定表
- 通帳の入出金記録(購入代金の振込履歴)
- 登記簿の抵当権設定額(推定の参考になる)
- 当時の固定資産税評価額や路線価(合理的に推計する材料)
近年は、契約書がなくても合理的な方法で取得費を推計できるケースもあります。税理士に相談することで、概算取得費よりも有利な金額を採用できる可能性があるため、安易に5%で済ませないことが大切です。
保有期間で変わる税率の違い(短期・長期)

譲渡所得税は、不動産の保有期間によって税率が2種類に分かれます。判定基準は「売却した年の1月1日時点で保有期間が5年を超えているかどうか」です。
| 区分 | 保有期間 | 所得税 | 住民税 | 合計税率 |
|---|---|---|---|---|
| 短期譲渡所得 | 5年以下 | 30.63% | 9% | 39.63% |
| 長期譲渡所得 | 5年超 | 15.315% | 5% | 20.315% |
※所得税には復興特別所得税(2.1%)が含まれています。
相続では被相続人の保有期間を引き継げる
ここが相続不動産の大きなメリットです。相続の場合、被相続人(亡くなった方)の取得日と保有期間をそのまま引き継ぎます。
つまり、亡くなった親が20年前に購入したアパートであれば、相続後すぐに売却しても「長期譲渡(20.315%)」が適用されます。相続した日からカウントし直されるわけではないため、多くのケースで長期扱いとなり、税率面で有利です。
税負担を軽減する主な特例とメリット・デメリット

相続した不動産の売却では、一定の条件を満たすことで税負担を大きく軽減できる特例があります。代表的なものを整理します。
①取得費加算の特例
相続税を支払った人が、相続開始の翌日から相続税申告期限の翌日以後3年以内(=相続開始から実質3年10か月以内)に売却した場合、支払った相続税の一部を取得費に加算できる制度です。
- メリット:取得費が増えるため譲渡所得が減り、税額が下がる
- デメリット:適用期限(3年10か月)があり、相続税を納めていない人は使え
- デメリット:適用期限(3年10か月)があり、相続税を納めていない人は使えない
相続税を多く納めた方ほど効果が大きい特例です。売却を検討しているなら、申告期限後3年以内という期限を意識してスケジュールを立てましょう。
②空き家の3,000万円特別控除
被相続人が一人で居住していた家屋を相続し、一定の要件を満たして売却した場合、譲渡所得から最大3,000万円を控除できる特例です。ただし、これは居住用家屋が対象であり、賃貸に出していたアパートには原則として適用できません。
- メリット:控除額が大きく、譲渡所得がゼロになるケースもある
- デメリット:賃貸アパートは対象外。要件(耐震基準・解体など)が細かい
相続したアパートが過去に被相続人の自宅だった場合などは、適用可否を税理士に確認する価値があります。
③長期譲渡所得の軽減税率(マイホーム特例)
所有期間が10年を超える居住用財産を売却した場合に税率が軽減される制度ですが、これも居住用が前提です。賃貸アパートには適用されないため、相続したアパートを売る際は前述の「取得費加算の特例」が中心的な節税手段となります。
相続したアパート売却の具体的な税額シミュレーション
実際に数字を当てはめて計算してみましょう。以下の条件で試算します。
- 売却価格:5,000万円
- 取得費(被相続人の購入価格-減価償却費):2,000万円
- 譲渡費用(仲介手数料など):200万円
- 保有期間:被相続人取得から20年(長期譲渡)
譲渡所得は「5,000万円-(2,000万円+200万円)=2,800万円」となります。これに長期譲渡所得の税率20.315%を掛けると、税額は約568万円です。
仮に取得費加算の特例で300万円を取得費に上乗せできた場合、譲渡所得は2,500万円となり、税額は約508万円。約60万円の節税効果が生まれます。
このように、取得費をいかに正確に計上し、特例を活用するかで税額は大きく変わります。特に取得費が不明な場合は「売却価格の5%」とみなされ、譲渡所得が膨らみやすいため、購入時の契約書を探すことが重要です。
相続したアパート売却でよくある質問(FAQ)
Q1. 被相続人の購入価格がわからない場合はどうなりますか?
購入時の契約書や領収書などで取得費を証明できない場合、「概算取得費」として売却価格の5%を取得費とみなします。たとえば5,000万円で売却した場合、取得費はわずか250万円となり、譲渡所得が大きくなって税負担が重くなります。まずは権利証や通帳の記録、購入時の不動産会社の資料などを徹底的に探しましょう。リフォーム費用の領収書も取得費に加算できる場合があります。
Q2. 相続人が複数いる場合、税金はどう計算しますか?
共有名義で相続したアパートを売却した場合、譲渡所得は各相続人の持分割合に応じて分配され、それぞれが個別に確定申告を行います。たとえば兄弟2人で2分の1ずつ共有していれば、譲渡所得も半分ずつに分けて計算し、各自の他の所得とは分離して課税されます。取得費加算の特例も、各人が納めた相続税額に応じて適用されます。
Q3. 確定申告はいつ行えばよいですか?
不動産を売却して譲渡所得が発生した場合、売却した年の翌年2月16日から3月15日までの間に確定申告を行う必要があります。たとえ特例を使って税額がゼロになる場合でも、特例の適用には申告が条件となっているため、必ず申告しましょう。申告漏れがあると、加算税や延滞税が課されるおそれがあります。
Q4. 売却で損失が出た場合も申告が必要ですか?
賃貸用アパートの売却で譲渡損失が出た場合、原則として他の所得との損益通算はできません。マイホームの売却損とは異なる扱いになるため注意が必要です。ただし、同じ年に複数の不動産を売却して利益と損失が混在する場合は、不動産の譲渡所得内で相殺できます。判断が難しいケースは税理士に相談しましょう。
まとめ
相続したアパートを売却した際の税金は、「譲渡所得(売却価格-取得費-譲渡費用-特別控除)」に税率を掛けて算出します。相続の場合は被相続人の取得日や保有期間をそのまま引き継げるため、多くのケースで税率20.315%の長期譲渡所得が適用され、税率面で有利になります。
税負担を軽減するうえで特に重要なのが、相続税の申告期限から3年以内に売却することで使える「取得費加算の特例」です。期限を過ぎると活用できないため、売却を検討しているなら早めにスケジュールを組むことをおすすめします。また、取得費を正確に計上できるかどうかで税額が大きく変わるため、購入時の契約書や資料を確実に保管・確認しておきましょう。
相続不動産の売却は、譲渡所得税だけでなく相続税や遺産分割の問題も絡み合い、判断が複雑になりがちです。少しでも不安がある場合は、税理士や不動産の専門家に早い段階で相談し、最適な売却タイミングと節税策を検討することが、手元に残る金額を最大化する近道となります。