この記事の3行まとめ
・減価償却は税金を「消す」のではなく、課税のタイミングを将来に繰り延べる制度
・デッドクロスや売却時の譲渡所得課税など、長期的なリスクも理解して活用すべき
・税率・借入状況・出口戦略を踏まえたシミュレーションで「経営戦略」として判断することが重要
「減価償却を使えば不動産投資で節税できる」——マンション経営に関心を持つと、必ず耳にする言葉です。確かに減価償却は税負担を軽くする効果があります。しかし、その本質を理解せずに活用すると、数年後に思わぬ税負担の増加や資金繰りの悪化(デッドクロス)を招くことがあります。
本記事では、マンションオーナー・不動産投資家の視点から、減価償却の仕組み・節税効果・落とし穴・対策までを、具体的な数字とシミュレーションを交えて徹底解説します。正しく理解して、健全なマンション経営を実現しましょう。
- 減価償却とは?マンション経営における基本の仕組み
- 減価償却とは何か(定義)
- 減価償却の対象は「建物」だけ
- なぜ減価償却で「節税」になるのか
- 減価償却の計算方法と耐用年数【具体例つき】
- 構造別の法定耐用年数
- 中古物件の耐用年数の計算
- 具体的なシミュレーション例
- 減価償却で得られる3つの効果
- ① 所得税・住民税の圧縮
- ② キャッシュフローの改善
- ③ 累進課税の緩和(損益通算)
- 注意すべき落とし穴① デッドクロス
- デッドクロスとは何か
- デッドクロスが起きやすいケース
- デッドクロス対策
- 注意すべき落とし穴② 売却時の税負担増
- 譲渡所得税率は保有期間で変わる
- 節税効果が高い人・低い人
- 節税効果が高いケース
- 節税効果が低いケース
- 減価償却を活用する際の実践的な注意点
- 建物と土地の割合を適正に按分する
- 減価償却費の計上は途中で止められない
- 「デッドクロス」に備える
- よくある質問(FAQ)
- Q1. 減価償却費は確定申告で必ず計上しなければならないのですか?
- Q2. 中古マンションを購入した場合、耐用年数はどう計算しますか?
- Q3. 減価償却が終わった後はどうすればよいですか?
- Q4. 設備部分を分けて償却すると有利になりますか?
- まとめ
減価償却とは?マンション経営における基本の仕組み

減価償却は「節税対策」として語られることが多い制度ですが、その本質は税金を減らすことではなく、課税のタイミングを後ろにずらす(繰り延べる)仕組みです。まずは基本の考え方から整理しましょう。
減価償却とは何か(定義)
減価償却とは、建物など時間の経過とともに価値が減少する資産について、その取得費用を法定耐用年数に応じて分割し、毎年経費として計上する会計上の仕組みです。一度に費用化するのではなく、資産を使用する期間にわたって少しずつ経費に振り分けていきます。
減価償却の対象は「建物」だけ
マンション経営において、減価償却の対象となるのは「建物部分」および「建物附属設備」のみです。土地は時間が経っても価値が減らない(とみなされる)ため、減価償却の対象外となります。これは投資判断において非常に重要なポイントです。
例えば、3,000万円の物件を購入し、そのうち建物が2,000万円、土地が1,000万円であれば、償却できるのは建物部分の2,000万円だけです。同じ価格の物件でも、建物割合が高いほど減価償却費を多く計上でき、節税効果が大きくなります。
| 区分 | 減価償却の対象 | 理由 |
|---|---|---|
| 建物 | ○ 対象 | 経年で劣化・価値減少するため |
| 建物附属設備(給排水・電気等) | ○ 対象 | 建物より短い耐用年数で償却可 |
| 土地 | × 対象外 | 経年で価値が減らないとされるため |
なぜ減価償却で「節税」になるのか
減価償却が「節税になる」と言われる最大の理由は、実際には現金が出ていかないのに経費として計上できるという特殊性にあります。
建物の購入代金は、ローンを組んだ場合でも、現金で支払う「キャッシュアウト」と、経費計上する「減価償却費」がズレて発生します。減価償却費は購入年以降、毎年自動的に経費となるため、不動産所得を圧縮します。
不動産所得が圧縮されれば、所得税・住民税が軽減されます。さらにサラリーマンオーナーであれば、不動産所得が赤字になった場合に給与所得と「損益通算」できるため、源泉徴収された税金が還付されるケースもあります。これが「減価償却は節税になる」と言われる仕組みです。
ただし重要なのは、税金が永久になくなるわけではないという点です。減価償却で建物の簿価を下げた分、売却時の譲渡所得が増えて課税されるため、トータルで見れば「課税の先送り」に過ぎないことを理解しておく必要があります。
減価償却の計算方法と耐用年数【具体例つき】

構造別の法定耐用年数
減価償却費は「建物価格 ÷ 耐用年数」で算出します(定額法の場合)。耐用年数は建物の構造によって法律で定められています。
| 構造 | 法定耐用年数 | 定額法の償却率 |
|---|---|---|
| 木造 | 22年 | 0.046 |
| 軽量鉄骨造(厚さ3mm以下) | 19年 | 0.053 |
| 重量鉄骨造(厚さ4mm超) | 34年 | 0.030 |
| 鉄筋コンクリート造(RC) | 47年 | 0.022 |
| 鉄骨鉄筋コンクリート造(SRC) | 47年 | 0.022 |
※建物附属設備は15年程度、現在の住宅取得分は定額法が原則です。
中古物件の耐用年数の計算
中古物件は新築よりも短い耐用年数で償却でき、節税効果が高まります。築年数に応じて以下の簡便法で計算します。
- 法定耐用年数を超えた物件:法定耐用年数 × 20%
- 法定耐用年数の一部が経過した物件:(法定耐用年数 − 経過年数)+ 経過年数 × 20%
例えば、築22年を超えた木造アパートは「22年 × 20% = 4年(端数切捨て)」となり、わずか4年で建物価格を償却できます。建物価格2,000万円なら年間500万円を経費計上できる計算です。これが、富裕層が築古木造物件を「減価償却狙い」で購入する理由です。
具体的なシミュレーション例
建物価格2,000万円のケースで、構造による減価償却費の違いを比較します。
| 構造・築年数 | 償却期間 | 年間減価償却費 |
|---|---|---|
| 新築RC造(47年) | 47年 | 約44万円 |
| 新築木造(22年) | 22年 | 約92万円 |
| 築15年木造(残存約11年) | 11年 | 約182万円 |
| 築22年超 木造 | 4年 | 約500万円 |
同じ建物価格でも、構造と築年数によって年間の節税インパクトが10倍以上変わることがわかります。
減価償却で得られる3つの効果

減価償却はマンション経営の収支構造に複数の影響を与えます。ここでは実務上とくに重要な3つの効果を整理します。
① 所得税・住民税の圧縮
減価償却費を計上することで課税所得が減り、その年の税負担が軽くなります。とくに高所得層は累進課税で高い税率が適用されるため、効果が大きくなります。例えば課税所得900万円超〜1,800万円以下の人は所得税率33%+住民税10%=合計43%。年間200万円の減価償却費を計上すれば、単純計算で約86万円の税負担軽減になります。
② キャッシュフローの改善
減価償却費は「現金が出ていかない経費」です。そのため、帳簿上は利益が小さく(または赤字)見えても、手元には現金が残る状態をつくれます。納税額が減ることで、その分のキャッシュを次の投資や繰上返済に回せます。
③ 累進課税の緩和(損益通算)
サラリーマンオーナーは、不動産所得の赤字を給与所得と損益通算できます。これにより給与所得の課税ベースが下がり、源泉徴収済みの税金が還付されます。高い税率の給与所得を圧縮できるため、累進課税のデメリットを和らげる効果があります。
注意すべき落とし穴① デッドクロス

デッドクロスとは何か
デッドクロスとは、「減価償却費(経費だが現金支出なし)」が減少する一方で、「ローン元金返済(現金支出だが経費にならない)」が上回り、帳簿上は黒字なのに手元の現金が不足する状態のことです。
減価償却が終わる(または元利均等返済で元金部分が増える)と、経費にならない支出が増え、課税所得が膨らみます。結果として「黒字倒産」に近い資金繰り悪化が起こります。
| 項目 | 性質 | 影響 |
|---|---|---|
| 減価償却費 | 経費になる/現金支出なし | 年々減少・終了する |
| ローン元金返済 | 経費にならない/現金支出あり | 元利均等では年々増加 |
| ローン利息 | 経費になる/現金支出あり | 年々減少する |
デッドクロスが起きやすいケース
- 築古物件を短期の減価償却で購入し、ローン期間が償却期間より長い
- 元利均等返済で、返済が進むほど元金割合が増えている
- フルローン・オーバーローンで自己資金が少ない
- 減価償却終了後も長期のローンが残っている
デッドクロス対策
- 自己資金を多めに入れる:ローン返済額を抑え、元金負担を軽くする
- 繰上返済で利息を圧縮:手元資金に余裕があるうちに元金を減らす
- 元金均等返済を選ぶ:返済初期の負担は重いが後半が楽になる
- 減価償却終了前に売却(出口戦略):キャッシュフローが悪化する前に手放す
- 納税用の現金を積み立てておく:黒字化後の納税に備える
注意すべき落とし穴② 売却時の税負担増

減価償却で建物の簿価(帳簿上の価値)を下げると、その分だけ売却時の「譲渡所得」が増えます。譲渡所得は「売却価格 −(取得費 − 減価償却累計額)− 譲渡費用」で計算されるため、たくさん償却した物件ほど取得費が小さくなり、譲渡益が大きく=税金が増えるのです。これが「課税の先送り」の正体です。
譲渡所得税率は保有期間で変わる
| 区分 | 保有期間 | 税率(所得税+住民税) |
|---|---|---|
| 短期譲渡所得 | 5年以下 | 約39.63% |
| 長期譲渡所得 | 5年超 | 約20.315% |
※保有期間は「売却した年の1月1日時点」で判定します。
築古木造を4年で償却し、5年以内に売却すると、保有中は高い所得税率(最大45%超)で節税できても、売却時は短期譲渡で約40%課税されます。所得税率と譲渡税率の「差」がプラスになる人(=高所得者)でなければ、節税メリットは小さくなります。最低でも長期譲渡(保有5年超)になるタイミングまで持つのがセオリーです。
節税効果が高い人・低い人

節税効果が高いケース
- 課税所得が高い人(目安:課税所得900万円超):所得税率と譲渡税率の差が大きく、繰り延べメリットが効く
- 築古木造など、短期で多額の減価償却が取れる物件を保有
- 給与所得など他の所得と損益通算できる人
- 長期譲渡(5年超保有)まで保有する出口計画がある
節税効果が低いケース
- 課税所得が低い人(目安:課税所得330万円以下):所得税率と譲渡税率の差が小さく、メリットが薄い
- 新築RC造など耐用年数が長く、年間の償却額が小さい物件
- 建物割合が低く(=土地割合が高く)、償却対象が少ない物件
- 短期で売却する予定で、短期譲渡課税を受けてしまう人
- 減価償却による節税は「税金がなくなる」のではなく「先送り」である
- 償却した分だけ売却時の譲渡所得が増えるため、出口まで含めて計算する
- 最低でも長期譲渡(保有5年超)のタイミングまで保有するのがセオリー
- 建物と土地の按分は客観的な根拠に基づいて行う
- 償却終了後の「デッドクロス」や税負担増に備えた出口戦略を立てておく
つまり減価償却による節税は「誰でも得をする魔法」ではありません。自分の課税所得の水準、物件の構造・築年数、そして出口(売却)戦略まで含めてトータルで判断することが欠かせないのです。所得税率が23%以下の方の場合、保有中に節税できる税率と売却時の長期譲渡税率(約20%)がほぼ同じになるため、繰り延べによる金銭的なメリットはほとんど生まれません。
減価償却を活用する際の実践的な注意点
建物と土地の割合を適正に按分する
減価償却できるのは「建物」部分のみで、土地は償却対象外です。そのため、物件取得時に売買代金を建物と土地にどう按分するかが、その後の償却額を大きく左右します。建物割合を高くすれば償却額は増えますが、合理的な根拠なく恣意的に建物割合を膨らませると、税務調査で否認されるリスクがあります。固定資産税評価額の比率や、売買契約書の消費税額からの逆算など、客観的な根拠に基づいて按分することが重要です。
減価償却費の計上は途中で止められない
「今年は黒字だから償却を多めに、来年は赤字だから少なめに」といった調整は、原則としてできません。法定の耐用年数と償却方法に従って、毎年機械的に計上していくものです。利益操作の道具として使えるわけではない点を理解しておきましょう。
「デッドクロス」に備える
不動産投資で意外な落とし穴となるのが「デッドクロス」です。これは、ローンの元金返済額が減価償却費を上回る状態を指します。元金返済は経費にならないのに現金は出ていき、一方で減価償却費は経費になるのに現金は出ていきません。償却期間が終わると経費(=減価償却費)が消える一方、元金返済は続くため、「帳簿上は黒字なのに手元の現金が足りない」という事態に陥りやすくなります。築古物件を短期償却した場合は特に注意が必要です。
よくある質問(FAQ)
Q1. 減価償却費は確定申告で必ず計上しなければならないのですか?
はい、個人の不動産所得においては、減価償却費の計上は「強制償却」とされており、任意で計上を見送ることはできません。法定の耐用年数と償却方法に従って毎年計上する義務があります。法人の場合は任意償却(限度額の範囲内で調整可能)が認められていますが、個人とは扱いが異なる点に注意しましょう。「今年は計上しないでおこう」といった調整はできないため、毎年の収支計画に必ず織り込んでおく必要があります。
Q2. 中古マンションを購入した場合、耐用年数はどう計算しますか?
中古物件の場合は「簡便法」で耐用年数を算出するのが一般的です。法定耐用年数をすでに過ぎている物件は「法定耐用年数 × 20%」、まだ残存年数がある物件は「(法定耐用年数 − 経過年数)+ 経過年数 × 20%」で計算します。たとえば法定耐用年数47年のRC造マンションを築20年で購入した場合、(47 − 20)+ 20 × 0.2 = 31年が耐用年数になります。1年未満の端数は切り捨て、計算結果が2年未満の場合は2年とします。
Q3. 減価償却が終わった後はどうすればよいですか?
償却期間が終わると経費計上できる減価償却費がなくなり、帳簿上の利益(課税所得)が一気に増えます。これにより税負担が重くなるため、対策として「長期譲渡の要件を満たしたタイミングで売却する」「新たな物件を取得して償却資産を補充する」「法人化して税率を抑える」などの選択肢があります。償却が切れるタイミングは購入時点である程度予測できるため、早めに出口戦略を立てておくことが重要です。
Q4. 設備部分を分けて償却すると有利になりますか?
建物本体と建物附属設備(給排水設備、電気設備、エレベーターなど)を区分して計上すると、設備部分は耐用年数が短い(15年など)ため、初期の償却額を大きくできるケースがあります。ただし設備の取得価額を合理的に区分できる資料が必要で、按分の根拠が不十分だと否認されるリスクもあります。実行する際は税理士に相談のうえ進めるのが安全です。
まとめ
減価償却はマンションオーナーにとって有力な節税ツールですが、その本質は「税金がなくなる」のではなく「税金を将来に先送りする(課税の繰り延べ)」という点にあります。保有中に減価償却費を経費計上して所得税・住民税を抑えられても、売却時には簿価が下がった分だけ譲渡所得が増え、譲渡所得税として課税されます。
したがって、減価償却で本当に得をするのは「保有中の所得税率と、売却時の譲渡税率の差が大きい人」、すなわち課税所得が高く、長期譲渡(5年超保有)まで持ち切れる出口計画を持つオーナーです。逆に課税所得が低い方や、短期売却を予定している方にとっては、メリットが薄かったり、かえって不利になったりすることもあります。
本記事のポイントを改めて整理すると、次のとおりです。
減価償却は仕組みを正しく理解してこそ威力を発揮するツールです。自分の所得水準や物件の特性、保有・売却の計画を踏まえ、必要に応じて税理士など専門家のアドバイスを受けながら、トータルでメリットが出る活用を心がけましょう。目先の節税額だけに惑わされず、購入から売却までの「生涯収支」で判断する視点が、賢いマンションオーナーへの第一歩です。