この記事の3行まとめ
① SDGs・環境配慮は空室対策と資産価値向上に直結する経営戦略になりつつある
② 太陽光・断熱・蓄電池など設備投資は補助金・税制優遇で実質負担を軽減できる
③ 環境認証(BELS・CASBEE等)の取得は融資・賃料・評価額にプラスの効果が期待できる
世界的な潮流であるSDGs(持続可能な開発目標)への関心の高まりは、賃貸住宅業界も決して例外ではありません。賃貸経営においても、環境への配慮が空室対策や資産価値向上に直結する重要な経営戦略となりつつあります。本記事では、なぜ今、賃貸経営に環境配慮が必要なのか、具体的な取り組みから投資メリット・補助金活用まで、不動産オーナー・投資家の視点で詳しく解説します。
- なぜ今、賃貸経営にSDGsと環境配慮が必要なのか
- 入居者ニーズの変化と環境意識の高まり
- 浸透しつつある環境配慮型物件とは
- SDGsに対応することで得られる信用と融資メリット
- 賃貸管理に活かせる環境配慮の具体的な取り組み
- 最新の省エネ・再エネ設備の導入例
- ごみ分別・断熱対策など日常管理での工夫
- 災害・異常気象に備える環境対応型設備
- SDGsに沿った共用部・外構のリニューアル例
- 環境配慮が生む賃貸投資の新たな利回りとリスク対策
- 設備投資とランニングコストのバランス
- 長期入居・空室率改善につながる理由
- 資産価値の維持・向上効果
- 補助金・優遇制度の活用ポイント
- 賃貸経営とSDGsに関するよくある質問
- Q. 小規模なアパート経営でも環境配慮の取り組みは可能ですか?
- Q. 環境配慮型の物件にすると、本当に家賃を高く設定できますか?
- Q. 古い物件でもSDGsへの対応はできますか?
- Q. 環境配慮の取り組みをどうやって入居者にアピールすればよいですか?
- まとめ
なぜ今、賃貸経営にSDGsと環境配慮が必要なのか

物件の価値を左右する新たな基準となりつつあるのが、賃貸住宅市場における「SDGs」「環境配慮」という概念です。かつては大手不動産会社やオフィスビルの話題と思われていましたが、いまや個人オーナーの賃貸経営にも無関係ではなくなっています。その理由を3つの側面から掘り下げていきます。
入居者ニーズの変化と環境意識の高まり
内閣府が令和5年に実施した「SDGsに関する世論調査」によると、約65.0%が「持続可能な開発を目指す上で経済・社会・環境の統合が重要であることを知っている」と回答しています。さらに、24.5%が「17のゴール・169のターゲットで構成されることを知っている」、7.5%が「2030年までに達成すべきゴールであることを理解している」など、認知だけでなく具体的な理解度も広がっています。
この結果から、SDGsは一部の層に限定された概念ではなく、社会全体に広く浸透しつつあることが分かります。とくに環境意識の高い若年層や子育て世帯では、光熱費の安さや室内の快適性、災害への備えといった「住まいの環境性能」を物件選びの基準にする傾向が強まっています。
賃貸住宅経営はSDGsと決して無関係ではありません。特に以下の3つの目標は、賃貸住宅経営と密接に関わります。
- SDGs 7:エネルギーをみんなに、そしてクリーンに
- SDGs 11:住み続けられるまちづくりを
- SDGs 13:気候変動に具体的な対策を
入居者が物件を選ぶ際に、こうしたSDGsへの取り組みが判断材料となる可能性は今後さらに高まるでしょう。例えばZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)基準のように、省エネ・断熱・創エネを備えた住宅は、入居者の環境意識と「光熱費を抑えたい」という実利の両方に応える選択肢となっています。
出典:内閣府「SDGsに関する全国アンケート調査結果」2024年12月
浸透しつつある環境配慮型物件とは
環境配慮型物件とは、温室効果ガスの排出削減など、文字どおり環境に配慮した物件のことです。こうした物件を客観的に評価するための環境認証制度も存在します。これは建物の省エネ・環境性能などを第三者機関が評価・認証する制度で、入居者や金融機関に対する「見える化された信頼の証」となります。
日本国内では、CASBEE・BELS・DBJ Green Buildingが環境性能評価・認証制度の代表格として広まりつつあります。それぞれの特徴を整理すると以下のとおりです。
| 認証制度 | 評価の主な対象 | 特徴 |
|---|---|---|
| BELS | 建物の省エネ性能 | 星の数(★〜★★★★★)で省エネ性能を表示。新築・既存どちらも対象 |
| CASBEE | 環境品質と環境負荷の総合評価 | 省エネだけでなく室内環境・景観なども含めて総合評価 |
| DBJ Green Building | 環境・社会への配慮を含む建物の総合価値 | 日本政策投資銀行が主導。投資不動産で評価が高い |
2025年4月、環境・省エネルギー計算センターが、不動産投資信託(J-REIT)の環境性能評価・認証取得状況の調査結果を公表しました。その内容は以下のとおりです。
| 認証制度 | 取得件数 | 2024年との比較 |
|---|---|---|
| BELS | 677件 | 前年度比 +81件 |
| CASBEE | 1,071件 | 前年度比 +283件 |
| DBJ Green Building | 467件 | 前年度比 −92件 |
BELS・CASBEEが大きく件数を伸ばしており、認証取得が市場のスタンダードになりつつあることがうかがえます。
出典:PR TIMES「国内の3大環境性能認証等(BELS、CASBEE、DBJ Green Building)の取得傾向が明らかに 全57銘柄『J-REIT 環境性能評価・認証取得状況調査2025』」
さらに、三井住友信託銀行の調査によると、東京都心5区の賃貸オフィスビルでは環境認証取得率が41%(全国平均26%)にのぼり、認証取得済みの高ランク物件は賃料にも好影響があると推計されています。住宅市場でも同様の動きが今後波及していくと考えられます。
出典:三井住友信託銀行株式会社「不動産の環境認証の取得状況および経済価値の調査の実施について」2024年3月
SDGsに対応することで得られる信用と融資メリット
2025年4月からの建築物省エネ法の改正により、原則すべての新築建築物に省エネ基準への適合が義務化されました。新築および大規模改修の賃貸住宅では省エネ基準の適合が求められ、ZEH・ZEB水準の性能確保も今後の重要なテーマとなります。つまり、環境配慮はもはや「任意の取り組み」ではなく「法的な前提条件」になりつつあるのです。
また、国土交通省の実践ガイダンスにおいても、SDGsへの対応は行政・金融機関・投資家からの信頼・支援につながると明記されています。具体的には次のようなメリットが期待できます。
- 金融機関のグリーンローン・サステナビリティ・リンク・ローンなど、優遇金利の融資商品を利用できる可能性
- 自治体のSDGs登録・認証制度に登録することで、公共調達や資金調達で優遇を受けられるケース
- 環境性能の高い物件は将来的な資産価値の下落リスクが小さく、担保評価が安定しやすい
出典:国土交通省「建築物省エネ法の概要」
賃貸管理に活かせる環境配慮の具体的な取り組み

環境配慮型賃貸経営には、最新設備の導入から日常管理の小さな工夫まで、取り組み規模やコストに大きな幅があるのが特徴です。「いきなり数百万円の投資はできない」というオーナーでも、低コストで始められる施策から取り組めます。次より、取り組みの具体的なポイントをコスト感とともに紹介します。
最新の省エネ・再エネ設備の導入例
新築住宅や既存物件の改修における代表的な施策が太陽光発電設備の導入です。省エネ・再エネ設備は初期費用が高額になりがちなのがデメリットですが、長期的にはランニングコスト削減と入居者満足度の向上につながります。主な設備とおおよその費用感は以下のとおりです。
| 設備 | 費用感(目安) | 主な効果 |
|---|---|---|
| 太陽光発電(戸建賃貸〜小規模) | 約80万〜150万円 | 共用部・住戸の電力を自家発電し光熱費を削減 |
| 家庭用蓄電池 | 約100万〜200万円 | 停電時のバックアップ・余剰電力の有効活用 |
| 高効率給湯器(エコキュート等) | 約40万〜60万円 | 給湯エネルギーの大幅削減 |
| LED照明(共用部一括交換) | 約5万〜30万円 | 消費電力削減・交換頻度の低下 |
| 断熱窓・複層ガラスへの交換 | 1窓あたり約5万〜15万円 | 冷暖房効率の向上・結露防止 |
導入後は、AIを活用したエネルギー管理システムにより、エネルギー使用量を15〜25%削減できる可能性があります。これはIEA(国際エネルギー機関)が建物部門における2030年までのエネルギー使用量削減目標として掲げている水準と同等です。条件が整えば、初期投資を数年で回収した事例も報告されています。
ごみ分別・断熱対策など日常管理での工夫
日常の小規模な取り組みである「ごみの分別」も、環境配慮のための立派な材料の一つです。ごみ分別ルールの徹底や掲示の工夫、簡易な断熱改修はコストを抑えつつ入居者の快適性・満足度の向上につながり、物件としての「環境配慮」アピールにもなります。
- ごみ置き場の整理・分別表示の多言語化(数千円〜)
- 玄関ドアやサッシの隙間テープ・断熱フィルム施工(1住戸あたり数千円〜)
- 節水型シャワーヘッド・蛇口アダプターの設置(1個数千円)
- 共用部の人感センサー照明への切り替え
これらは計画的な修繕と合わせて実施することで、ランニングコストの削減や空室率改善に有効です。低コストで「すぐに始められる」施策として、まずここから着手するのがおすすめです。
災害・異常気象に備える環境対応型設備
気候変動リスクが具体化するなか、レジリエンス(回復力)の強化もSDGs対応の重要な要素です。災害に強い物件は、入居者の安心感を高め、選ばれる理由にもなります。具体的には以下のような施策が考えられます。
- 停電時に備えた蓄電池の設置・非常用電源の確保
- 断熱性能の強化による、停電時の冷暖房なしでも居住性を維持できる住環境づくり
- 共有スペースを災害発生時に地域の人々へ開放できる設計
- マンション住人向けの災害時用の食料・飲料水のストック
- 浸水対策としての止水板・嵩上げ電源の設置
こうした対策を前もって準備しておくことで、災害時に入居者や地域へ貢献でき、地域社会との良好な関係構築にもつながります。
SDGsに沿った共用部・外構のリニューアル例
共用部や外構のリニューアルでは、緑化やバイオフィリックデザイン(自然を取り入れた設計)の導入、エネルギーや資源使用量の「見える化」などが可能です。SDGsの観点で目に見える形の貢献を示すことで、物件のブランディング強化や管理力のアピールにもなります。
- エントランス・外構の緑化、屋上緑化による景観向上とヒートアイランド緩和
- 共用部へのEV充電設備の設置(将来の入居者ニーズに対応)
- 使用電力量の見える化による入居者の省エネ意識の醸成
- 環境配慮を入居者と共有するグリーンリース契約の導入
グリーンリース契約などの戦略を検討することで、入居者との長期的な関係構築にもつながります。
環境配慮が生む賃貸投資の新たな利回りとリスク対策

環境配慮への投資は「コスト」ではなく「将来の収益とリスク対策への投資」と捉えることが重要です。ここでは投資判断の視点から、4つのポイントを解説します。
設備投資とランニングコストのバランス
環境設備は初期投資が大きい一方、導入後の光熱費・修繕費を抑えられます。重要なのは、投資回収期間(ペイバック期間)を把握したうえで判断することです。一般的な目安は以下のとおりです。
| 施策 | 初期投資の規模 | 回収期間の目安 |
|---|---|---|
| LED照明への交換 | 小 | 約1〜3年 |
| 節水・断熱の簡易改修 | 小 | 約2〜4年 |
| 高効率給湯器 | 中 | 約5〜8年 |
| 太陽光発電 | 大 | 約7〜12年(補助金活用で短縮) |
| 蓄電池 | 大 | 10年以上(防災価値を加味して判断) |
回収期間が短い小規模施策から着手し、段階的に大型投資へ広げていく方法が、キャッシュフローを守りながら環境配慮を進める現実的な戦略です。
長期入居・空室率改善につながる理由
断熱性能が高く光熱費を抑えられる物件は、入居者にとって「住み心地が良く、生活コストも安い」という明確なメリットがあります。これは退去理由の減少=長期入居の促進につながり、結果として空室期間の短縮や広告費の削減という形で収益に貢献します。光熱費の安さや快適性は、内見時のアピールポイントにもなり、競合物件との差別化要因として機能します。
資産価値の維持・向上効果
環境性能の高い物件は、将来的な売却(出口戦略)においても有利に働きます。建物の省エネ性能を評価する制度が普及しつつあり、こうした評価を取得した物件は資産価値の評価でプラスに働く傾向があります。
- BELS(建築物省エネルギー性能表示制度)の取得による性能の見える化
- 省エネ基準適合による融資条件の優遇(グリーンローンなど)
- 将来の規制強化に対応した「資産の陳腐化リスク」の低減
今後、建築物の省エネ基準は段階的に強化される見込みです。早期に環境配慮を進めておくことは、将来の規制対応コストを先取りし、資産価値の目減りを防ぐリスク対策にもなります。
補助金・優遇制度の活用ポイント
環境配慮型の設備投資には、国や自治体によるさまざまな補助金・優遇制度が用意されています。これらを活用することで、初期投資の負担を大幅に軽減し、投資回収期間を短縮できます。
- 省エネ改修・高効率設備導入に関する国の補助金制度
- 太陽光発電・蓄電池に対する自治体独自の助成金
- 環境性能の高い建物に対する固定資産税の軽減措置
- 金融機関によるグリーンローン・ESG関連融資の金利優遇
補助金は年度ごとに内容や予算枠が変わり、申請期間も限られています。最新情報を定期的に確認し、専門家やメーカーと連携しながら計画的に申請することが成功のカギです。
賃貸経営とSDGsに関するよくある質問
ここでは、賃貸経営における環境配慮・SDGsの取り組みについて、オーナーからよく寄せられる疑問にお答えします。
Q. 小規模なアパート経営でも環境配慮の取り組みは可能ですか?
はい、十分に可能です。むしろ小規模物件こそ、低コストで効果の高い施策から始めることをおすすめします。LED照明への交換、節水型設備の導入、断熱性能を高めるカーテンや窓フィルムの設置などは、初期投資が小さく回収期間も短い施策です。大規模な設備投資をいきなり行う必要はなく、できる範囲から段階的に進めることで、無理なく環境配慮型の賃貸経営を実現できます。
Q. 環境配慮型の物件にすると、本当に家賃を高く設定できますか?
家賃の上乗せが必ずしも保証されるわけではありませんが、「光熱費の安さ」「快適性」「健康への配慮」といった付加価値は、入居者の物件選びにおいて重要な判断材料になりつつあります。直接的な家賃アップが難しい場合でも、空室期間の短縮や長期入居の促進といった形で、実質的な収益改善につながるケースが多く見られます。特に環境意識の高い層をターゲットにする場合、競合物件との差別化要因として効果を発揮します。
Q. 古い物件でもSDGsへの対応はできますか?
築年数が経過した物件でも対応は可能です。大規模なリノベーションが難しい場合でも、設備の更新時に高効率なものを選ぶ、共用部の照明をLED化する、入居者と省エネ意識を共有するなど、できることは数多くあります。修繕や設備更新のタイミングを「環境配慮へのアップグレード機会」と捉えることで、コストを抑えながら段階的に物件の環境性能を高められます。
Q. 環境配慮の取り組みをどうやって入居者にアピールすればよいですか?
募集広告や物件情報に「省エネ設備完備」「光熱費が抑えられる断熱仕様」といった具体的なメリットを明記することが効果的です。また、エネルギー使用量の見える化や、ゴミ分別・リサイクルへの協力をお願いするなど、入居者と一緒に取り組む姿勢を示すことで、物件への愛着や満足度の向上にもつながります。環境への配慮は、オーナーの管理姿勢の良さを伝えるアピールポイントにもなります。
まとめ
賃貸経営におけるSDGs・環境配慮の視点は、単なる社会貢献や流行ではなく、これからの時代に物件の競争力と資産価値を守るための重要な経営戦略です。本記事で解説したポイントを振り返ってみましょう。
- 環境配慮は「コスト」ではなく「将来の収益とリスク対策への投資」と捉える
- 回収期間の短い小規模施策から始め、段階的に大型投資へ広げる
- 断熱性能や省エネ設備は、長期入居・空室率改善・資産価値維持に貢献する
- 補助金・優遇制度を活用すれば、初期投資の負担を大きく軽減できる
- 古い物件や小規模物件でも、できる範囲から取り組みを始められる
今後、建築物の省エネ基準の強化や、入居者の環境意識の高まりは確実に進んでいきます。早い段階で環境配慮型の賃貸経営に舵を切ることは、将来の規制対応コストを先取りし、選ばれ続ける物件をつくるための賢明な選択です。まずは身近にできる小さな一歩から、環境に配慮した賃貸経営を始めてみてはいかがでしょうか。