賃貸経営において避けて通れないのが「賃貸借契約」です。契約は入居者との信頼関係を築くための最初のステップですが、内容を曖昧にしてしまうと後々のトラブルの原因になります。経験を積んだ中級オーナーであっても、契約書の細部を見落とすことでリスクに直面することがあります。
本記事では、大家が知っておくべき賃貸借契約の注意点と、実務で役立つチェックポイントを整理し、トラブル回避のための具体的な対応策を紹介します。
目次
- 賃貸借契約で大家が直面しやすいトラブルとは
- 契約書で必ず確認すべき基本条項
- 賃料・敷金・礼金の明記
- 契約期間と更新条項
- 使用目的と禁止事項
- 修繕・管理の責任分担
- 解約・解除の条件
- 特約条項を設ける際の注意点
- 保証人・保証会社に関する注意点
- 入居時のチェックリストを整備する
- 事例から学ぶトラブル回避のポイント
- 大家が陥りやすい勘違いポイント
- 入居者への説明時の工夫
- 弁護士や管理会社に相談するメリット
- まとめ
賃貸借契約で大家が直面しやすいトラブルとは

賃貸借契約における代表的なトラブルは以下の3点です。
- 敷金・原状回復をめぐる紛争
- 家賃滞納や契約解除に関する争い
- 特約条項の有効性をめぐる問題
国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」※1によれば、もっとも多いのは「原状回復の範囲」をめぐる争いです。例えば「壁紙の汚れは自然損耗か、それとも借主の責任か」で対立し、裁判まで発展することもあります。
また、家賃滞納を理由に契約解除を行う際も「滞納何か月で解除できるのか」「猶予期間は必要か」で争いになる場合があります。実際に、2か月程度の滞納では解除が認められなかった判例も存在します。
契約書で必ず確認すべき基本条項

賃料・敷金・礼金の明記
家賃の金額、支払期日、支払い方法は必ず明確に。敷金や礼金も返還条件を細かく定め、特に「敷金と原状回復費用の関係」は注意すべきです。
契約期間と更新条項
普通借家契約か定期借家契約かで大きな違いがあります。普通借家は借主の保護が強く更新が基本、定期借家は更新がなくオーナーに有利ですが説明義務があります。また「更新料」を巡るトラブルも多く、地域の慣習や法解釈を確認しましょう。
使用目的と禁止事項
使用目的(居住用か事務所用か)を明確にし、禁止事項(ペット、楽器、民泊利用など)は契約書に必ず記載しましょう。口頭説明だけでは効力が弱いです。
修繕・管理の責任分担
設備不具合の修繕費用をどちらが負担するかを明記しないと、トラブルの原因になります。
解約・解除の条件
解約通知期間(例:1か月前通知)、家賃滞納による解除条件を具体的に定めましょう。判例上、1~2か月程度の滞納では解除を認めない場合もあり、慎重な条項設計が必要です。
特約条項を設ける際の注意点
特約は有効に使えばリスク管理に役立ちますが、借主に一方的に不利なものは無効と判断されます。
- 「退去時に必ず全室クロス張替え」
- 「クリーニング費用を一律で高額請求」
といった条項は無効とされることが多く、ガイドラインに沿った合理的な設定が必要です。
保証人・保証会社に関する注意点

保証人制度は家賃回収リスクを減らす手段ですが、高齢化などで実効性が薄れることもあります。そのため保証会社の利用が増えています。
- 連帯保証人:従来型。親族が多いがリスクあり。
- 保証会社:保証料が必要だが、滞納時のリスクヘッジに有効。
両方を併用するオーナーも増えており、契約時の重要検討ポイントです。
入居時のチェックリストを整備する

契約書だけでなく、入居時に現況を共有しておくことがトラブル防止につながります。
- 室内状況を写真で記録
- 設備の動作確認を実施
- 借主と一緒にチェックリストへ署名
これにより退去時の原状回復費用を巡る争いを防げます。
事例から学ぶトラブル回避のポイント

ケース1:敷金精算トラブル
退去時に「全室クロス張替え費用」を請求したオーナーに対し、裁判所は「通常損耗・経年劣化は貸主負担」と判断し、請求の一部を無効としました。
👉 教訓:原状回復は通常損耗を除外して扱う。
ケース2:解約通知をめぐる争い
契約書に「解約は2か月前通知」と記載されていたが、借主は「1か月前で良いと説明された」と主張し紛争に。
👉 教訓:口頭説明ではなく、契約書で明文化する。
ケース3:違法使用による契約解除
居住用として契約した物件を、借主が無断で民泊に転用。オーナーが契約解除を求めた裁判では「契約違反が重大」と判断され解除が有効とされました。
👉 教訓:使用目的と禁止事項を明確に定め、違反時の解除条項を入れておく。
大家が陥りやすい勘違いポイント

- 敷金は自由に修繕費に使える → 実際は返還義務があり、相殺に限られる
- 特約をつければ何でも有効 → 借主に不利すぎる内容は無効
- 口頭説明でも効力がある → 契約書に記載がなければ無効となる場合が多い
- 更新料は必ず徴収できる → 判例で「地域慣習がない場合は無効」とされた例あり
- 保証人を立てれば安心 → 実際には支払能力が乏しいケースも多い
入居者への説明時の工夫

賃貸借契約書の内容は、宅建士による「重要事項説明」とセットで理解してもらうことが大切です。オーナーとしても、契約時に以下を実践すると信頼関係の構築に役立ちます。
- 契約書の重要条項を読み合わせる
- 原状回復の考え方を写真付きで説明する
- 特約内容は必ず理由を添えて解説する
このひと手間が、後のトラブル防止につながります。
弁護士や管理会社に相談するメリット
契約トラブルを完全に避けるのは難しいですが、専門家を活用することでリスクを減らせます。
- 弁護士:契約書チェック、裁判対応
- 管理会社:入居者対応、更新、トラブル処理
中級オーナーにとっては、自主管理+専門家サポートのハイブリッド型運営が現実的です。
まとめ
賃貸借契約は、オーナーと入居者双方にとって重要なルール作りの場です。
- 基本条項を明確にする
- 特約は合理的で借主にも理解される内容に
- 敷金・原状回復はガイドラインに従う
- 契約更新・保証人制度にも注意する
- 入居時チェックリストを整備する
- 入居者説明を丁寧に行う
- 必要に応じて弁護士や管理会社に相談する
これらを徹底することで、契約に関するトラブルを未然に防ぎ、安定した賃貸経営を実現できます。