賃貸経営にSDGs視点が必要?「環境配慮型」についてのポイントを解説

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賃貸経営にSDGs視点が必要?「環境配慮型」についてのポイントを解説

世界的な潮流であるSDGs(持続可能な開発目標)への関心の高まりは、賃貸住宅などの業界も決して例外ではありません。賃貸経営においても、環境への配慮が空室対策や資産価値向上に直結する重要な経営戦略となるのです。

本記事では、なぜ今、賃貸経営に環境配慮が必要なのか、具体的な取り組みから投資メリットなどを詳しく解説します。

なぜ今、賃貸経営にSDGsと環境配慮が必要なのか

ベランダのウッド調床材と設置されたエアコン室外機

物件の価値を左右する新たな基準となりつつあるのが、賃貸住宅市場における「SDGs」「環境配慮」という概念です。その具体的な理由を3つの側面から掘り下げていきます。

入居者ニーズの変化と環境意識の高まり


内閣府が令和5年に実施した「SDGsに関する世論調査」によると、約65.0%が『持続可能な開発を目指す上で経済・社会・環境の統合が重要であることを知っている』と回答しています。

さらに、24.5%が『17のゴール・169のターゲットで構成されることを知っている』、7.5%が『2030年までに達成すべきゴールであることを理解している』など、認知だけでなく具体的な理解度も広がっています。

この結果から、SDGsは一部の層に限定された概念ではなく、社会全体に広く浸透しつつあることが分かります。

そして賃貸住宅経営はSDGsと決して無関係ではありません。特に以下の3つの目標は、賃貸住宅経営と密接に関わります。

SDGsの主要目標
  • 「エネルギーをみんなに、クリーンに」(SDGs7)
  • 「住み続けられるまちづくり」(SDGs11)
  • 「気候変動に具体的な対策を」(SDGs13)

入居者が物件を選ぶ際に、こうしたSDGsへの取り組みが判断材料となる可能性は今後さらに高まるでしょう。

例えばZEH(Nearly Zero Energy House)基準のように、省エネ・断熱・創エネを備えた住宅は、入居者の環境意識に応える選択肢となっています。

出典:内閣府【SDGsに関する全国アンケート調査結果】2024年12月

浸透しつつある環境配慮型物件


環境配慮型物件とは、温室効果ガスの排出削減など文字通り環境に配慮した物件のことです。そして物件を認証する環境認証制度も存在します。建物の省エネ・環境性能などを第三者機関が評価し、認証する制度です。

日本国内では、CASBEE・BELS・DBJ Green Buildingが、環境性能評価・認証制度の代表格として広まりつつあります。

2025年4月、環境・省エネルギー計算センターが、不動産投資信託J-REITの環境性能評価・認証取得状況の調査結果を公表しました。この調査結果は、以下の通りです。

不動産が認証を受けた制度 件数 2024年との比較
BELS 677件 前年度比+81件
CASBEE 1,071件 前年度比+283件
DBJ Green Building 467件 前年度比−92件

出典:PRTIMES「国内の3大環境性能認証等<BELS、CASBEE、DBJ Green Building>の取得傾向が明らかに 全57銘柄 『J-REIT 環境性能評価・認証取得状況調査2025』」より

さらに、三井住友信託銀行の調査によると、東京都心5区の賃貸オフィスビルでは、環境認証取得率が41%(全国平均26%)にのぼり、認証取得高ランク物件は賃料にも好影響があると推計されています。

出典:三井住友信託銀行株式会社【不動産の環境認証の取得状況および経済価値の調査の実施について】2024年3月

SDGsに対応することで得られる信用と融資メリット


2025年4月からの建築物省エネ法の改正により、新築および大規模改修の賃貸住宅では省エネ基準への適合が義務化され、ZEH・ZEB水準の性能確保も求められます。

また、国土交通省の実践ガイダンスにおいても、SDGsへの対応は行政・金融機関・投資家からの信頼・支援につながると明記されています。

自治体によるSDGs登録制度では、公共調達や資金調達における優遇が受けられることもあるため、SDGsに対応すれば多大なメリットがあるといえるでしょう。

出典:国土交通省【建築物省エネ法の概要】

賃貸管理に活かせる環境配慮の具体的な取り組み

木目天井とフローリングが特徴の賃貸住宅のリビングとオープンキッチン

環境配慮型賃貸経営には、最新設備の導入から日常管理の工夫まで、取り組み規模やコストには幅があるのが特徴です。次より、取り組みの具体的なポイントを紹介します。

最新の省エネ・再エネ設備の導入例


新築住宅や既存物件の改修における代表的な施策といえば、太陽光発電設備の導入です。最近の省エネ設備の導入は、初期費用のコストが高額になるのがデメリットといえます。

ただし導入後は、AIを活用したエネルギー管理システムにより、エネルギー使用量を15〜25%削減できる可能性があります。

これは、IEAが建物部門における2030年までのエネルギー使用量25%削減目標として掲げている数値と同一です。実際に導入によって、初期投資を2年で回収した事例もあります。

ごみ分別・断熱対策など日常管理での工夫


日常の小規模な取り組みである、ゴミの分別も環境配慮のための材料の一つです。例えば、ごみ分別の徹底や断熱改修はコストを抑えつつ入居者の快適性・満足度の向上につながり、「環境配慮」のアピールにもなります。

これらは、計画的な修繕と合わせて実施することで、ランニングコストの削減や空室率改善に有効です。

災害・異常気象に備える環境対応型設備


気候変動リスクが具体化するなか、レジリエンス(回復力)の強化もSDGs対応の重要な要素です。

具体的には以下のような施策が考えられます。

災害対策項目
  • 停電時に備えた蓄電池のストック準備・設置
  • 断熱性能強化による冷暖房停電時の居住性維持
  • 共有スペースを災害発生時に地域の人たちに開放する
  • マンション住人の災害時用の食料や水をストックするなど

対策を前もって準備しておけば、災害時に貢献できます。

SDGsに沿った共用部・外構のリニューアル例


共用部や外構のリニューアルにおいては、緑化やバイオフィリックデザインの導入、エネルギーや資源の見える化などが可能です。SDGsの観点で見える形の貢献を示すことで、物件のブランディング強化や管理力のアピールにもなります。

また、グリーンリース契約などの戦略を検討することで、入居者との長期的な関係構築にもつながります。

環境配慮が生む賃貸投資の新たな利回りとリスク対策

日当たりの良いリビングと対面式キッチンがある賃貸住宅の室内

設備投資と環境対応は初期費用こそかかりますが、長期的には収益・評価・安定性という点で確実なプラス効果をもたらす可能性があります。ここでは、利回り向上とリスク軽減という観点から、その構造を具体的に解説します。

設備投資とランニングコストのバランス


省エネ設備や断熱改修は、決して少ない出費になるため初期費用がかかります。

しかし維持管理費の低減や入居率向上などによって、長期的にコストと見合う効果が期待でき、その代表例が断熱や太陽光発電です。エネルギーコスト削減との相乗効果で、投資回収が実現します。

長期入居・空室率改善につながる理由


計画的修繕や環境配慮の取り組みを実施するオーナーに多いのが、以下のような報告です。

経営効果
  • 高い入居率の確保
  • 家賃水準の維持

これらは、環境配慮そのものではなく「管理品質」として認識され、入居者からの信頼を生む要因となります。

補助金・税制優遇の活用で実質投資負担を軽減


2025年以降になって整備されている傾向なのが、省エネ性能が高い住宅の改修に対する補助金・税・融資を総動員する体制です。

さらに、自治体によるSDGs登録制度では、入札加点や資金支援が得られた事例もあり、環境対策を進める際の負担軽減につながります。

不動産評価額や金融機関からの評価向上も視野に


CASBEEBELSといった環境性能評価認証の取得は、不動産のグリーンプレミアムにつながります。グリーンプレミアムとは、クリーンな技術を選択するための「追加費用」のことです。

欧米では、LEED認証物件は非認証物件に比べて価格で4%高いという報告もあり、ヘルシンキの事例では1.3%のプレミアムが確認されています。

日本でもJ-REIT保有物件で環境認証取得が進み、都心部では認証取得が賃料押し上げ効果にもつながっていると推測されます。

まとめ|今こそ、環境を味方につけた賃貸経営を

賃貸経営における「SDGs視点」「環境配慮」の重要性は、入居者ニーズ・法律・金融・認証制度・補助制度・市場評価といった多角的な視点で高まっています。

ただ流行に乗るのではなく、法制度への適応、認証取得、投資効率、資産価値の向上を戦略化し、持続可能で安定した経営を目指すことが、賃貸経営において求められていることです。

環境配慮型賃貸経営は、未来に誇れる資産形成の鍵といえます。賃貸経営におけるSDGs視点・環境配慮についての大事なポイントを押さえて、新しいタイプの賃貸経営を目指しましょう。

著者

クラウド管理編集部

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