空室対策として外国人入居者を受け入れたいが、トラブルが起こらないか不安だ「相談できる相手もおらず、正直なところ『外国人入居者をどう断ればよいか』と悩んでしまう」
このように考え、受け入れをためらっているオーナーも少なくありません。 しかし近年、賃貸物件における外国人入居者の受け入れは、不動産収入の安定化を図る有効な手段として注目されています。
本記事では、外国人入居者を受け入れる際の事前準備や対応のポイントを紹介します。最後まで読むことでトラブルの予防と対策が理解でき、不動産を長期的な収入源として活用するヒントを得られるでしょう。
外国人入居者を受け入れるメリットとは?

外国人入居者を受け入れるメリットは、少子高齢化が進む日本において、空室対策の新しい担い手となる入居者層を確保できる点です。
出入国在留管理庁の発表によれば、令和6年末時点の在留外国人数は約377万人と過去最高を更新しました。日本人の人口減少が顕著に進む今、在留外国人は賃貸市場において無視できない巨大な顧客層といえます。
漠然とした不安を抱えたまま受け入れをためらうことは、大きな機会損失につながりかねません。
もちろん、メリットの裏にはリスクも存在します。健全な不動産運用を続けるためには「入居拒否」という選択をする前に、リスクを管理し、安定した収益源へと変える方法を知ることが重要です。
外国人入居者トラブルの根本にある3つの原因と予防策

外国人入居者との間で起こるトラブルの根本原因は、次の3つに整理できます。
この3点を事前に理解し、適切に対応しておくことで、トラブルを未然に防ぎ、安定した賃貸経営につなげることが可能です。
「常識」や「文化」の違い
「常識」や「文化の違い」が原因で起こるトラブル事例としては、次のようなものがあります。
公益財団法人日本賃貸住宅管理協会が令和4年に実施した調査でも、入居中に注意されたことの上位には「騒音」、「ゴミ出しルール違反」、「家賃の支払い遅れ」などが挙げられています。
こうしたトラブルの多くは悪意によるものではなく、日本特有の賃貸ルールや生活習慣を十分に知らないことが原因です。
たとえば、国によっては礼金や更新料を支払う慣習がないため「なぜ家賃以外に追加費用がかかるのか」と疑問を持つ入居者もいます。
また、ゴミの分別習慣がない国から来た人にとっては、日本の分別ルールを理解するのが難しいケースもあります。
文化の違いによるトラブルを防ぐには、入居時に多言語対応のイラスト付きルールブックを渡したり、実際にゴミステーションに案内したりするなど、視覚的に理解できる工夫が有効です。
「文化が違うから理解してもらえない」と諦めるのではなく、「知らないだけなので伝えれば理解してもらえる」という視点を持つことが、良好な関係づくりと安定した賃貸経営につながる第一歩です。
金銭的セーフティネットの欠如
金銭的セーフティーネットの欠如が引き起こす代表的なトラブルは、家賃滞納です。日本で賃貸物件を借りる際には、多くの場合、連帯保証人が必要とされます。
一定の支払い能力が条件となるため、外国人労働者の場合は勤務先の企業が身元保証を担うことがあります。
留学生の場合は、学校が直接保証人になるのではなく、学校が提携する保証会社や学生向けの補償制度を利用するケースが一般的です。
特に来日したばかりの在留外国人は、適切な連帯保証人を見つけられないことも少なくありません。そのため入居者が経済的に困窮すると、家賃滞納が発生しやすくなります。
こうしたリスクを防ぐには、保証会社を活用することが有効です。保証会社は、家賃の滞納や物件の損害を連帯保証人に代わって補償する仕組みを持っています。
入居前に保証会社への加入を徹底しておけば、オーナーは金銭的リスクを大幅に軽減でき、安定した賃貸経営につなげることができます。
法律・手続きに関する知識不足
オーナーが法律や契約手続きに関する知識を十分に持っていない場合、次のようなトラブルに巻き込まれる恐れがあります。
外国人が日本で暮らすためには「在留資格」という法的な許可が必要です。もし在留資格の切れた外国人と賃貸契約を結んでしまうと、オーナー自身が法的責任を問われる可能性もあります。
また、入居希望者が契約内容を十分理解しないまま契約を進めたことで、後に大きなトラブルにつながるケースもあります。
リスクを避けるためには、入居審査時に「在留カード」を必ず確認すること、契約時に重要事項を母国語やわかりやすい日本語で説明することが重要です。
在留カードの見方や偽造防止のチェック方法が不明な場合は、法務省が公開している「在留カード」および「特別永住者証明書の見方」を参考にしましょう。
さらに契約書には「在留資格を喪失した場合は契約を解除する」という条項を盛り込んでおくと、万一オーバーステイ状態になった際でも契約解除をスムーズに進められます。
なお、悪質な不法滞在が疑われる場合には、早急に弁護士や出入国在留管理庁へ相談できる体制を整えておくことが安心につながります。
オーナーの「困った!」を解決する相談先一覧

3つのポイントを理解して対策を講じていても、実際に取り組む中で疑問や不安を感じたり、専門的な知識が必要になる場面も出てきます。
どんなに入念に準備しても、不測のトラブルが発生する可能性は残ります。そんなときには、一人で抱え込まずに専門家へ相談することが安心につながります。以下に、オーナーが頼れる主な相談先をまとめました。
相談先 | 対応内容 | 質問例 |
---|---|---|
不動産会社 |
・日常的なトラブルの一次対応 ・入居者へのルール説明代行 ・契約、更新、退去手続きのサポート ・多言語対応 など |
「ゴミ出しや騒音の注意をしたいが、言葉が通じない。間に入って伝えてもらえますか?」 「入居希望の外国人と契約する際、契約手続きで気をつけるべき点はありますか?」 「退去時の原状回復について、入居者と認識が合わないので立ち会ってほしい」 |
保証会社 |
・家賃滞納の保証 ・滞納時の督促、回収代行 など ※多言語での生活相談サポートを提供する会社もある |
「家賃の支払いが遅れているのですが、保証会社から連絡してもらえますか?」 「申込者の年収で、この家賃の保証審査は通りますか?」 「(もしあれば)保証会社の通訳サービスを使って、入居者に伝えたいことがあるのですが」 |
弁護士・行政書士 |
・在留カードの確認方法 ・在留期間の更新手続き ・その他入管法に関わる法的な手続きの相談、代行 ・トラブル発生時の法的解決(弁護士のみ) |
「在留カードのどこを見れば、適法に滞在しているか確認できますか?」 「契約期間中に在留期間が切れてしまいそうです。入居者にはどう促せばよいですか?」 「『技術・人文知識・国際業務』という在留資格ですが、アルバイトは可能ですか?(※大家として知っておくべき知識として)」 |
自治体の国際交流協会・NPO法人など |
・多言語での生活情報提供 ・日本語教室の案内 ・ボランティア通訳の派遣 ・文化交流イベントの開催 など |
「入居者が日本語や地域のルールで困っているようです。何かサポートしてもらえる制度はありますか?」 「市のゴミ出しルールについて、外国語で書かれたパンフレットはありますか?」 「大家として、地域の外国人支援のために協力できることはありますか?」 |
それぞれの相談先には専門分野と役割が明確に分かれています。オーナーはその特徴を理解し、問題に応じて適切な相談先を選ぶことが大切です。
また、専門家への相談窓口に加えて、国土交通省が作成した「外国人の民間賃貸住宅入居円滑化ガイドライン」も信頼できる参考資料として役立ちます。
このガイドラインには、外国人入居者を受け入れる際の基本的な考え方に加え、多言語対応の「入居申込書」や「賃貸住宅ルール説明書」のひな形、契約時に確認すべきチェックリストなど便利なツールが数多く収録されています。
あらかじめダウンロードして手元に置いておけば、「どう伝えればよいか分からない」と感じたときに安心して対応できる一助となるでしょう。
出典:国土交通省【外国人の民間賃貸住宅への円滑な入居について】
まとめ
外国人入居者の受け入れ問題の根本には、「ライフスタイルの違い」「金銭的セーフティーネットの欠如」「法律・手続きの知識不足」という3つの原因が挙げられます。
トラブルを予防するためには、これらの原因を理解したうえで適切な対策を講じることが重要です。もし対応に不安を感じたら、一人で抱え込まずに専門家へ相談することで、安心して賃貸経営を続けることができます。
本記事を参考に、外国人入居者への対応を「オーナーを悩ませる課題」から、長期的な収益機会へと転換していきましょう。