不動産経営を続けていると、「そろそろ法人化を考えた方がいいのでは?」と思うタイミングが来ます。しかし、法人化にはメリットだけでなく、デメリットも多いため、それぞれを比較して判断しなくてはいけません。
この記事では、法人化に向いている人の特徴や検討のタイミング、設立にかかる費用や手続き、不動産を法人に移す方法、会社形態の選び方、そして注意すべきポイントを整理しました。全体像を把握し、自分に合った判断を下すための参考にしてください。
目次
- 法人化に向いている人と検討のタイミング
- 法人化にかかる費用とランニングコスト
- 法人化の手続き・方法
- 不動産を法人名義に移す方法
- 会社形態の選び方
- 法人化を検討する際の注意点と専門家相談
- まとめ
- 不動産収入が年間で数百万円を超えている方
- 高所得で税負担が大きくなっている方
- 複数の物件を所有している、または今後増やす予定がある方
- 相続や事業承継を見据えて資産を整理したい方
法人化に向いている人と検討のタイミング

法人化が効果を発揮しやすいのは、以下のようなケースです。
また、法人化のタイミングとしては、物件数が増えて収益規模が拡大してきたときや、所得税率が高くなってきたときが目安です。最適な時期は人によって異なるため、税理士と相談しながら検討するのが安心です。
法人化にかかる費用とランニングコスト

法人を設立するには初期費用が必要です。株式会社であれば登録免許税や定款認証料を含めて20万円前後、合同会社なら6万円程度から設立できます。
設立後も、赤字であっても法人住民税(最低7万円前後)が発生します。さらに、会計処理や申告を税理士に依頼すれば、年間数十万円の報酬が必要です。こうしたランニングコストを収益と比較し、負担にならないかを確認しておきましょう。
法人化の手続き・方法

法人化は複数のステップを踏んで進めます。あらかじめ流れを理解しておくことで、スムーズに対応できるでしょう。
定款作成
定款は、会社を設立する際の基本規則をまとめた最重要書類です。会社名(商号)・本店所在地・事業目的・発行可能株式数・資本金の額・決算期など、会社運営の土台となる情報を記載します。
将来のトラブルを避けるためにも、事業目的や運営方針はできるだけ具体的に定めることが大切です。
公証役場で定款認証
株式会社を設立する場合は、公証役場で定款の認証を受ける必要があります。手数料は約3~5万円に加え、紙の定款では印紙代4万円が必要です。
ただし電子定款を利用すれば印紙代は不要となり、費用を抑えられます。なお、合同会社では認証手続きが不要なため、この点が設立コストを低くできる理由の一つです。
登記申請(法務局)
設立登記は、会社の設立日を確定させるための重要な手続きです。登録免許税は株式会社で最低15万円、合同会社で最低6万円が必要になります。
司法書士に依頼する場合は、数万円から10万円程度を見込んでおくと良いでしょう。
税務署・自治体への届出
設立後1か月以内に法人設立届出書や青色申告の承認申請書を提出します。青色申告を選択することで、欠損金繰越や特別控除の恩恵を受けやすくなります。
法人口座開設・会計体制整備
設立後は会社名義の銀行口座を開設し、会計ソフトの導入や専門家からのサポート体制を整えることが大切です。経理の透明性を保つため、個人の口座と法人の資金を混在させないように分けて管理するのが基本です。
不動産を法人名義に移す方法

個人が所有する不動産を法人に移す方法はいくつかあります。それぞれ税務上の扱いが異なり、思わぬ税負担が発生する場合もあるため注意が必要です。
売買
個人が法人に不動産を売却する方法です。取引は原則として時価で行われ、個人側には譲渡所得税が課されます。一方、法人側では購入価格を減価償却できるため、条件次第では節税効果が期待できます。
現物出資
不動産を出資財産として法人に移す方法です。売買と違い、譲渡所得税がかからない場合もあります。ただし、裁判所の検査役による評価や専門家の鑑定を要するケースもあり、手続きが煩雑になりやすい点には注意が必要です
贈与
個人が法人に不動産を無償で移転する方法です。贈与税や不動産取得税が発生する可能性が高く、実務上はほとんど利用されていません。
会社形態の選び方

法人化の際には、どの会社形態を選ぶかも重要なポイントです。経営規模や目的に応じて検討しましょう。
株式会社
信用力が高く、金融機関からの融資にも有利です。規模拡大や事業承継を視野に入れる場合に適しています。ただし、設立費用や維持コストは比較的高めになります。
合同会社(LLC)
設立費用が安く、運営もシンプルです。小規模経営や家族でまず法人化を試してみたいときに選ばれることが多いですが、信用力では株式会社に及びません。
法人化を検討する際の注意点と専門家相談

法人化は税務や法務が複雑に絡むため、自己判断だけで進めるのはリスクがあります。特に次の点を押さえておきましょう。
自治体ごとの法人住民税の違いに注意
法人を設立すると、利益がなくても「法人住民税の均等割」が毎年発生します。資本金によって税額は異なり、資本金1,000万円程度では7万円前後がかかります。
小規模経営では、この固定費が負担となる可能性があるので、法人化を検討する際は注意が必要です。
借入がある場合は金融機関との調整が必須
すでにローンを組んでいる不動産を法人に移す場合は、金融機関の承認が必要です。借入契約は個人と金融機関の間で結ばれているため、法人化に伴って契約変更が生じます。
追加担保や保証人を求められるケースもあり、融資条件が厳しくなることもあるため、事前に取引銀行と調整しておきましょう。
税務処理はケースごとに大きく異なる
不動産の移転方法(売買・現物出資・贈与など)によって課税の有無や金額は大きく変わります。
売買なら譲渡所得税が発生し、現物出資なら評価や鑑定が必要です。さらに、法人化後の減価償却や赤字繰越の扱いもケースによって異なるため、必ず税理士に相談して最適な方法を選ぶことが欠かせません。
専門家との相談が不可欠
法人化を成功させるには、税理士・司法書士・行政書士などとの連携が欠かせません。税務面では「どの所得規模なら法人化が有利か」、法務面では「会社形態の選び方」や「設立登記の流れ」など、判断すべきことが数多くあります。
相続対策を重視する場合には、相続に詳しい税理士や弁護士に相談しておくことで、将来のトラブルも未然に防げます。
まとめ

不動産経営の法人化は、節税や相続対策、信用力向上といったメリットが期待できる一方で、設立・維持にかかるコストや手続きの煩雑さといったデメリットも伴います。
大切なのは、自分の収益規模や経営目的に合った会社形態を選び、手続きや不動産移転方法の特徴を理解することです。金融機関との調整や税務処理はケースごとに異なるため、専門家のサポートを得ながら進めるのが安心です。メリットとリスクを正しく把握し、計画的に進めることで、安定した資産形成と将来の安心につなげていきましょう。

クラウド管理編集部