賃貸経営で効率的な節税を実現するために、個人事業主化を検討していませんか?
本記事では、「5棟10室基準の条件」「青色申告による最大65万円控除」「法人化との判断基準」を詳しく解説。
税理士監修のもと、年収800万円以上の投資家が知っておくべき節税戦略をお伝えします!
目次
- 個人事業主として賃貸経営を行うメリット
- 青色申告特別控除で最大65万円の所得控除を受けられる
- 青色事業専従者給与を経費計上できる
- 損益通算で他の所得と相殺できる
- 個人事業主として賃貸経営を行うデメリット
- 個人事業税が課税される
- 青色申告の書類作成が複雑になる
- 社会保険料の軽減効果が限定的
- 個人事業主と法人化の判断基準
- 年間不動産所得が800万円を超える場合
- 相続税対策を重視する場合
- 事業拡大を計画している場合
1.個人事業主として賃貸経営を行うメリット

個人事業主として賃貸経営を行うことで、4つの大きな税制上のメリットを享受できます。
特に青色申告による控除効果は年間最大65万円と非常に大きな節税効果をもたらします。
1)青色申告特別控除で最大65万円の所得控除を受けられる
青色申告を選択することで、年間最大65万円の特別控除を受けられます。
この控除は所得から直接差し引かれるため、税率20%の場合は年間13万円、税率33%の場合は年間21万円以上の節税効果が期待できます。
65万円控除を受けるには、複式簿記による帳簿作成とe-Tax又は電子帳簿保存が必要です。
これらの条件を満たさない場合でも、55万円控除(簡易簿記)または10万円控除を受けられます。
年収800万円のサラリーマン大家の場合、不動産所得200万円に対して65万円控除を適用すれば、課税所得を135万円まで圧縮できるため、大幅な税負担軽減につながります。
2)青色事業専従者給与を経費計上できる

配偶者や親族に賃貸経営の業務を手伝ってもらった場合、その労働対価として支払う給与を経費計上できます。
これを「青色事業専従者給与」といい、所得分散による節税効果を得られます。
専従者給与を適用するには、事前に「青色事業専従者給与に関する届出書」を税務署に提出し、実際に業務に従事していることが条件です。給与額は業務内容に見合った適正な金額である必要があります。
例えば、配偶者に月額8万円(年間96万円)の専従者給与を支払えば、事業主の税率30%の場合は約29万円の節税効果が生まれ、同時に配偶者の給与所得控除も活用できるため、世帯全体の税負担を大きく軽減できます。
3)損益通算で他の所得と相殺できる
不動産所得で損失が発生した場合、給与所得など他の所得と損益通算して相殺できます。
これにより、総合的な所得税額を削減し、源泉徴収された税金の還付を受けられます。
損益通算が特に有効なのは、新築物件の初年度や大規模修繕を実施した年です。
減価償却費や修繕費により帳簿上の赤字が発生しても、実際のキャッシュフローは黒字というケースがよくあります。
年収800万円のサラリーマンが不動産所得で100万円の損失を出した場合、税率30%として約30万円の還付を受けられる可能性があり、実質的な手出し負担を大幅に軽減できます。
2.個人事業主として賃貸経営を行うデメリット

個人事業主として賃貸経営を行う場合、3つの主要なデメリットも理解しておく必要があります。
特に個人事業税の負担は事前に資金計画に組み込んでおくことが重要です。
1)個人事業税が課税される
事業的規模で賃貸経営を行う場合、年間所得290万円を超えると個人事業税が課税されます。
不動産貸付業の税率は5%で、(不動産所得 - 290万円) × 5%で計算されます。
例えば、年間不動産所得が500万円の場合、(500万円 - 290万円) × 5% = 10.5万円の個人事業税が発生します。この税額は翌年8月と11月の2回に分けて納付する必要があります。
ただし、個人事業税は必要経費として計上できるため、支払った年の所得控除となり、所得税・住民税の節税効果があります。
実効税率を考慮すると、実質的な負担は7〜8万円程度に軽減されます。
2)青色申告の書類作成が複雑になる

65万円控除を受けるには複式簿記での帳簿作成が必要で、従来の白色申告と比べて事務処理が複雑になります。
貸借対照表と損益計算書の作成も義務付けられ、会計知識が必要になります。
具体的には、日々の収入・支出を仕訳で記録し、月次で試算表を作成、年度末には決算整理を行って青色申告決算書を完成させる必要があります。
これらの作業には相応の時間と労力が必要です。
対策として、会計ソフトの活用や税理士への委託が効果的です。
会計ソフトなら月額数千円、税理士委託でも年間10〜20万円程度で、65万円控除による節税効果を考えれば十分にペイできます。
3)社会保険料の軽減効果が限定的
法人化と異なり、個人事業主の賃貸経営では社会保険料の軽減効果が限定的です。
サラリーマン大家の場合、本業の給与から社会保険料が徴収されるため、不動産所得による追加的な保険料負担はありません。
ただし、不動産所得が増加すると国民健康保険料や国民年金保険料の負担が増える可能性があります。
特に国民健康保険の場合、前年所得に基づいて保険料が計算されるため、大幅な所得増加時は注意が必要です。
一方で、厚生年金や健康保険の保険料負担がないため、法人化時の社会保険料負担(約15%)と比較すると、個人事業主の方が手取り収入は多くなるケースが大半です。
3.個人事業主と法人化の判断基準

賃貸経営の規模拡大に伴い、個人事業主から法人化への移行を検討する時期が訪れます。
3つの主要な判断基準を理解して、最適なタイミングを見極めましょう。
1)年間不動産所得が800万円を超える場合
不動産所得が年間800万円を超えると、個人事業主より法人化の方が税負担を軽減できる可能性が高くなります。
個人の所得税・住民税の最高税率は55%ですが、法人税は約30%程度で済むためです。
具体的には、所得税の税率が33%(年間所得900万円超)を超える水準になったら法人化を検討しましょう。
法人化により社会保険料負担は増加しますが、それを上回る所得税節税効果が期待できます。
ただし、法人設立費用(約25万円)、税理士報酬の増加(年間20〜50万円)、社会保険料負担(約15%)なども考慮し、総合的に判断することが重要です。
2)相続税対策を重視する場合

将来の相続税対策を重視するなら、早期の法人化が有効です。
法人化により不動産の所有を個人から法人に移転し、相続財産の圧縮効果を得られます。
法人の株式評価額は純資産価額方式で算定されるため、不動産の時価より低く評価される傾向があります。
また、子供を株主や役員にして利益を分散すれば、さらなる相続税軽減効果が期待できます。
賃貸用不動産を法人で新規取得すれば、個人の相続財産を増やすことなく資産形成を進められます。
相続税の基礎控除額(3000万円+600万円×法定相続人数)を超える財産がある場合は特に有効です。
3)事業拡大を計画している場合
賃貸経営の事業拡大を積極的に進める場合、法人化により資金調達や節税の選択肢が大幅に広がります。
金融機関からの融資条件も法人の方が有利になるケースが多いです。
法人では給与所得控除の活用、退職金の支給、経費の範囲拡大など、個人事業主にはない税制上のメリットを享受できます。
複数の物件を効率的に管理・運営する体制構築にも適しています。
また、将来的に事業承継を予定している場合、法人株式の贈与により段階的に事業を移転できます。
個人事業主の廃業・開業手続きと比べて、事業継続性の観点でも法人化が有利です。