賃貸経営を法人化すべきか迷っているサラリーマン大家の方も多いのではないでしょうか。
本記事では、「法人化すべきタイミング」「具体的な節税効果とメリット・デメリット」「手続きと費用」を詳しく解説します。
年収1,000万円超なら年間100万円の節税も可能です!
目次
- 賃貸経営を法人化すべきタイミング
- 家賃収入が年間1,000万円を超えた時
- 給与所得と合わせた所得税率が高くなった時
- 賃貸経営法人化のメリット
- 所得税・住民税の節税効果
- 経費計上できる範囲の拡大
- 相続税対策としての効果
- 賃貸経営法人化のデメリット
- 法人設立と運営費用の発生
- 社会保険料の負担増加
- 小規模経営時のコスト倒れリスク
1.賃貸経営を法人化すべきタイミング

法人化の適切なタイミングは、収入規模や税率、将来の相続対策などを総合的に判断する必要があります。
具体的な判断基準として、年収1,000万円超、高い所得税率、相続税対策の3つのポイントを解説します。
1)家賃収入が年間1,000万円を超えた時
年間家賃収入が1,000万円を超えると、法人化による節税メリットが顕著に現れます。
個人の場合、不動産所得1,000万円に対する所得税・住民税は約330万円(税率33%)となります。一方、法人化すれば法人税約232万円(税率23.2%)となり、約100万円の節税効果が期待できます。
さらに役員報酬を設定することで、給与所得控除も活用でき、より大きな節税効果を得られます。
ただし、法人の維持費用(税理士報酬、法人住民税など)として年間50万円程度が必要になるため、実質的な節税効果は年間50万円程度となります。
この金額は法人化にかかる手間や時間を考慮しても、十分に検討価値のある水準といえます。
2)給与所得と合わせた所得税率が高くなった時
給与所得と不動産所得を合算した総所得が高くなると、累進税率により税負担が重くなります。
具体的には、総所得が900万円を超えると所得税率が33%、1,800万円を超えると43%となり、住民税10%と合わせると最大53%の税負担となります。
サラリーマンの年収が800万円で不動産所得が500万円の場合、合計1,300万円に対して約230万円の税負担が発生します。
法人化すれば不動産所得部分を分離でき、法人税23.2%の適用により約50万円の節税が可能です。
高収入のサラリーマンほど、法人化による税率差のメリットを享受できるため、早期の検討が有効です。
2.賃貸経営法人化のメリット

法人化により得られる主要なメリットを5つの観点から詳しく解説します。
節税効果、経費拡大、相続対策、欠損金繰越、資金調達の各メリットについて、具体的な効果を説明します。
1)所得税・住民税の節税効果
法人化の最大のメリットは所得税・住民税の大幅な節税効果です。
個人の所得税率は累進税率で最大45%に達しますが、中小企業の法人税率は23.2%で固定されています。
年間不動産所得が1,000万円の場合、個人では約330万円の税負担が、法人化により約232万円となり、年間約100万円の節税が可能です。
さらに役員報酬を設定すれば、給与所得控除(年収1,000万円で195万円)も活用でき、追加の節税効果を得られます。
配偶者を役員にして所得分散を図れば、世帯全体での税負担をさらに軽減できます。
高収入な方ほど税率差によるメリットが大きくなるため、年収800万円以上の方には特に有効な対策といえます。
2)経費計上できる範囲の拡大

法人化により経費として認められる範囲が大幅に拡大します。
個人では計上困難な役員報酬、社宅費、出張旅費、接待交際費などが経費として認められます。
例えば、自宅の一部を社宅として法人が賃借すれば、家賃の一部を経費にできます。
物件視察のための旅行費用も、適切な業務関連性があれば経費計上が可能です。
また、役員や従業員の福利厚生費、研修費、書籍代なども幅広く経費として扱えます。
生命保険についても、個人では所得控除の上限がありますが、法人契約なら保険料全額を経費にできる商品もあります。
これらの経費拡大により、実質的な手取り収入の増加と税負担の軽減を同時に実現できます。
3)相続税対策としての効果
法人化は長期的な相続税対策として大きな効果を発揮します。
不動産を法人所有にすることで、相続財産は不動産から法人株式に変わり、評価額を大幅に圧縮できます。
賃貸用不動産の相続税評価額は固定資産税評価額×0.8程度ですが、法人株式なら純資産価額から類似業種比準方式との併用により、さらに低い評価となります。
また、法人に利益を蓄積させることで個人財産の増加を抑え、将来の相続税負担を軽減できます。
推定相続人を株主にして持分を移転したり、役員報酬で所得移転を行うことで、生前から段階的な財産移転も可能です。
相続開始3年前までに法人化を完了させれば、より効果的な相続税対策となります。
3.賃貸経営法人化のデメリット

法人化には多くのメリットがある一方で、注意すべきデメリットも存在します。
設立・運営費用、社会保険料負担、手続きの複雑化、小規模時のリスクについて詳しく解説します。
1)法人設立と運営費用の発生
法人化には設立時と継続的な運営において相応の費用が発生します。
設立費用として、定款作成費約9万円、登録免許税15万円、司法書士報酬10万円など、合計30万円程度が必要です。
さらに年間運営費用として、法人住民税の均等割7万円、税理士報酬30万円程度、会計ソフト費用などで年間50万円程度のコストがかかります。
個人事業主なら確定申告を自分で行うことも可能ですが、法人の場合は税務処理が複雑で、多くの場合税理士への依頼が必要となります。
これらの費用を考慮すると、法人化による節税効果が年間50万円以下の場合は、実質的なメリットがないか限定的になります。
小規模な賃貸経営では費用対効果を慎重に検討する必要があります。
2)社会保険料の負担増加

法人化すると社会保険への加入が義務となり、保険料負担が大幅に増加します。
役員報酬を月額20万円に設定した場合、厚生年金・健康保険料として法人負担分約3万円、個人負担分約3万円の合計6万円が毎月発生し、年間72万円の追加負担となります。
個人事業主なら国民健康保険と国民年金で済みますが、法人では強制的に社会保険に加入する必要があります。
ただし、厚生年金は将来の年金額増加につながるため、単純な負担増とは言えません。
また、健康保険では傷病手当金や出産手当金などの給付も受けられます。
それでも当面のキャッシュフロー悪化は避けられないため、特に法人化初期は資金繰りに注意が必要です。
社会保険料を含めた総コストで法人化の効果を判断することが重要です。
3)小規模経営時のコスト倒れリスク
賃貸規模が小さい場合、法人化による固定費増加がコスト倒れを招くリスクがあります。
年間家賃収入が500万円程度の小規模経営では、法人化による節税効果が年間20万円程度にとどまる一方、運営費用として年間50万円程度が必要となり、差し引き30万円のマイナスとなる可能性があります。
さらに不動産の法人への移転時には、登録免許税や不動産取得税などで数十万円の費用も発生します。
個人なら青色申告特別控除65万円を活用し、簡便な会計処理で済ませられますが、法人では複式簿記による正確な会計処理が義務付けられます。
小規模経営の場合は、まず個人での事業拡大を図り、一定規模に達してから法人化を検討することが賢明です。
規模拡大の見通しがない場合は法人化を見送る判断も必要です。